圏外の日乘-静かなる天使の叫び
(佐々田雅子訳、集英社文庫、2009年6月30日)

ジャケ買いしてしまいそうな、オシャレな装幀。
でも、ミステリとしてはう~ん、な感じ(藁

作者はイギリス人ですが、
アメリカの一地方が舞台です。

その地方で、1939年から、
少女が、間を置いて連続して惨殺される
という事件が起きます。

その事件と第2次大戦の勃発によって
震撼し、揺れる地方住民の様子とが描かれます。

いわゆるシリアル・キラーものですが、
必ずしも犯人追究の興味で読ませる話ではない。

だいたい、連続殺人に取り憑かれた主人公が、
ぼーっとしてて、
積極的に犯人を追究しようとしてないんですもん。

語り手でもある主人公は、
事件が起きた土地で生まれ、
物書きをめざすようになる少年。
物語は、事件と戦争の影響を受けながら
成長していく語り手を描く
教養小説のようなプロットになっています。

教養小説(ビルドゥングス・ロマン)というのは
ドイツで生まれた小説ジャンルで、
徒弟から親方になっていく人生行路をなぞり、
未熟な少年から成熟した大人(社会的存在)になっていく
人格形成の経緯を描く文学ジャンルです。

つまり本書は、単純にまとめるなら、
教養小説とシリアル・キラー・テーマのミステリとの
ハイブリッド作品なわけです。

なぜ、犯人が長年に亙って残虐な事件を起こすのか、
現実にそういうものなのかもしれませんが、
よく分かりません。
それについてはいっさい書かれていない。
だからこそ、連続殺人に人生を侵蝕された
語り手の人生を描くのが主だと感じられるのですが。

語り手が田舎からニューヨークに出て、
そこで、ある事件に遭遇した時点で、
勘のいい読者には犯人が分かるでしょう。
自分はそこで分かりました(^.^;

でも、この小説は、
犯人当ての興味を主とした小説ではないので、
最後まで読めましたけどね。

上下遇わせて700ページほどありますが、
教養小説的なプロットを採っているので、
すっごく読みやすいです。

ミステリとして読むと、
やや、たらたらした感じですが、
少年の繊細な魂の成長を描いている部分で、
青春小説的に、そこそこ読ませるかな。

でも自分は、ほら、圏外の人間なので
さほど「魂を揺さぶ」られませんでしたけどf(^_^;