ロック自叙伝その293
文化祭の翌朝、校舎の空気はどこかいつもと違っていた。 
ざわざわとした期待と、昨夜の余韻が混じり合って、廊下の空気が少し甘い。 俺はギターケースを持っていない自分の手が、妙に軽く感じられた。
階段を上がると、すでに3人が教室前の廊下に集まっていた。
「おはよー!」
ミチルはいつも通りの声で手を振った。 だが、俺が近づくと、彼女の耳がほんのり赤くなっているのがわかった。
「昨日の……あれ、すごかったね」 「お前のピアノもな」 「まあね。私、天才だから」
口では強気なのに、目が合うとすぐ逸らす。 その仕草が、昨日のステージよりもずっと可愛らしく見えた。
「お、おう……昨日の、さ……」
シンジはいつもの不良っぽい態度を保とうとしていたが、 俺の顔を見ると、急に視線を床に落とした。
「……ベース、まあまあ良かっただろ?」
「まあまあじゃなくて、めちゃくちゃ良かったよ」
そう言うと、シンジは耳の後ろをかきながら、 「だよな」と小声でつぶやいた。 その声が、妙に嬉しそうだった。 ![]()
ヨウコはスティックをくるくる回しながら、 俺に向かって小さく会釈した。
「……昨日、楽しかったね」その一言に、彼女のすべてが詰まっていた。 控えめだけど、確かな喜び。 彼女の目は、昨日のステージの光をまだ宿していた。

4人が揃った瞬間、廊下の空気がざわっと動いた。
「昨日のバンド、あれお前らだったんか!」 「ギターの最後のやつ、鳥肌立ったぞ!」 「ミチル、あんな声出るんだな!」 「ヨウコのドラム、マジでかっこよかった!」 「シンジ、あれ本当にお前が歌ってたん?」
次々に声が飛んでくる。 まるで4人の周りに小さな渦ができたようだった。 
ミチルは「やめてよ〜」と言いながら満更でもなく、 シンジは「まあな」と言いつつ顔が真っ赤。 ヨウコは照れ笑いを浮かべ、 俺はどう返していいかわからず、ただ笑うしかなかった。
そのとき、誰かが言った。
「Bマイナーって名前、めっちゃ良くない?」
その一言で、4人は思わず顔を見合わせた。 昨
日のステージの余韻が、また胸の奥でふわりと膨らんだ。
クラスメートの波が引いたあと、 4人は自然と輪になって立っていた。
「…なんか、すごいことになってるね」 ヨウコがぽつりと言う。
「うん。でも、悪くない」 ミチルが笑う。
「次、何やる?」 シンジが言う。
俺は、胸の奥に昨日の夜の“自分の声”を思い出しながら答えた。
「……新しい曲、作ろう」
その言葉に、3人が同時にうなずいた。
嬉しさと恥ずかしさと、 未来への小さな期待が混ざり合った、 そんな朝だった。 















































