私の本棚71ー世阿弥の世界 | アンクルコアラのブログ

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日本酒、ラグビー、美術展、日本古代史、その他ランダムに雑感を綴って行きます。気まぐれなので更新は不定期かも?

歌舞伎、文楽、狂言ー我が国の古典芸能は一通り押さえているつもりである。特に文楽は大阪に在住していた時には、よく日本橋の国立文楽劇場に出掛けたものだ。

ところが能だけは縁が薄く、じっくりと鑑賞したことがない。大阪のNHKで開催された能楽教室で「船弁慶」を鑑賞したくらいである。

Eテレの古典芸能番組で能の演目を放映することもあるが、サッパリ理解出来ず敬遠していた。

そもそも能楽興隆の祖である世阿弥のことを殆ど知らない。足利義満の寵愛を得て重用されたこと、風姿花伝を書いたこと、晩年は佐渡に流されたことくらいである。

そんな私だがこの辺で能にも興味の領域を広げ、世阿弥と能の基礎知識を身に付けようと「世阿弥の世界」(増田正造著 集英社新書)を買い求めた。
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著者は能研究家で武蔵野大学名誉教授。観世流シテ方で「世阿弥の再来」とうたわれた観世寿夫と親交があり、長年能の普及に尽力して来た。1930年生まれだから今年86歳の長老である。

本書の構成は次の通りである。

・第一章 序の段 スーパースター世阿弥の栄光

・第二章 破の段 世阿弥の創った能
一、風の巻 能の本を書くことこの道の命なり
二、姿の巻 演劇としての能 動十分心 動七分身
三、花の巻 世阿弥語録抄 初心忘るべからず
四、伝の巻 世阿弥流転 万一少し廃るる時分ありとも

・第三章 急の段 世阿弥の継承

流石は能研究の大御所、入門書とは言え簡単な内容ではない。かなり能の素養がないと著者の言いたいことが十分理解出来ないだろう。

ただ、能をこよなく愛する著者の思いは十分伝わってくる。著者が賞賛する観世寿夫、桜間伴雄、梅若万三郎など名人達の演技をこの目で観てみたいと思わせる。

本書で一番取っ付き易かったのは、第二章花の巻の世阿弥語録抄である。「初心忘るべからず」「秘すれば花」「離見の見」「男時・女時」・・・

とりわけ私の心を抉った言葉は「たとい一子たりというとも、不器量の者には伝うべからず」と「年寄りの心には、何事をも若くしたがるものなり。さりながら力なく、五体も重く耳も遠ければ、心は行けども振舞いの叶わぬなり」。

あまりに人間というものを知る世阿弥の凄味に圧倒される思いである。そしてそれは世阿弥、更に600年の風雪に耐えて今日に至る能楽の凄味であり、能楽の一端を垣間見せてくれた本書に感謝したい。





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