私の本棚53ー脊梁山脈 | アンクルコアラのブログ

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日本酒、ラグビー、美術展、日本古代史、その他ランダムに雑感を綴って行きます。気まぐれなので更新は不定期かも?

今回の私の本棚は「脊梁山脈」(乙川優三郎著 新潮文庫)、私には珍しく現代小説の紹介である。
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と言ってもオープニングは昭和20年の復員列車で謎めいた青年と知り合った主人公が、青年の出自である「木地師」の世界に足を踏み入れて、各地を旅して様々な人と出会い、ついに青年との再会を果たすまでの、長くも 切ない自己再生の物語である。

信州の木地師、小椋一族が福島に移り住み、やがて定着するくだりを読んでいた時、丁度日経紙「私の履歴書」に小椋佳が書いていて、福島県桧原湖畔で世話になった民宿のご主人の姓が小椋だったことや、その村一帯50世帯のうち40数世帯が小椋姓だったそうだ。

これぞ正に木地師の集落ではないか。これもこの小説を読んでいるお蔭である。

この小説、戦後間もない日本を舞台に、謎に満ちた集団・木地師の実態を解き明かす伝奇小説だと思っていた。

無論それが本線なのだが、渡来人をルーツとする木地師集団の起源を追ううちに蘇我氏や天智天皇の真の姿を明らかにする古代史小説の趣きもあった。

主人公の恋愛譚もあり、500ページ近い大作を、飽きることなく読み切った。

蘇我氏云々など、古代史に興味を持つ者としては受け入れることの難しい論考もあったが、木地師について詳しく知ることが出来たし、総じて面白い小説と言える。

著者は時代小説のベテランであり、本書が初めての現代小説であるが、全体のトーンは時代小説のようであった。
特に恋愛譚の描き方がぎこちないのも時代小説のようであった。



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