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昨夜柴田 高明氏の演奏会に行ってきました。いつも意欲的なプログラムなのだけど、今回もそうで、全て日本の作曲家の伴奏なしの独奏曲。
実はこの演奏会行くかどうか躊躇した。日本人の作曲したマンドリン曲はあか抜けてなく、好みではないからである。若い頃(40年前頃)「高等科オデルマンドリン教則本」を編集した明大出身の山口吉雄氏が演奏会の時、日本の作曲家のものは沢庵とかの日本の味がすると言っていた記憶がある。確かに当時活躍していた作曲家達の合奏曲は日本の風物詩とか歴史とかを題材にしているものが多かったので、これはあながち間違いではない。そういう印象があったものだから、独奏曲をメインに弾く今も日本の作曲家の独奏曲は敬遠していた。まあ、食べず嫌いもよくないだろうからと、行くことにした。
実際演奏会で聴いてみると、日本的に聴こえるのは最後の「じょんがら」だけ。他のものは言われなければ日本人の作曲したものとは判らない。先入観はあっけなく破られた。むしろ、昨夜柴田氏が語ったようにマンドリンを弾く側の人が作曲したのか、それ以外の人が作曲したのかという視点で聴いた方が面白いかもしれない。

ところで、会場は池袋の駅近くだが、雑踏から離れた静かな住宅街にある自由学園明日館。由緒ある古い建物だ。会場に入ると窓側の方に古色蒼然とした椅子が向いており、奏者は窓を背に弾く形だ。窓の外には満開をやや過ぎた桜がライトアップされ美しい。ハラハラと桜が舞い散る光景を見ながら、日本人の作品を聴くのだ。これ程相応しい舞台はないだろう。なお、床は全て板張り。なので、非常に音が自然に跳ね返ってきて気持ちいい。会場もマンドリンにはちょうどいい広さなので、これから演奏会を企画する人は候補にいれてもいい会場だと思う。

さて1曲目は田中常彦氏の「ゆりかご」
マンドリン聡明期に活躍された人なので、結構古い作品と思ったが、長生きされており、1966年の作曲
複雑な技法ではなく、シンプルなデュオ奏法だ。ゆったりとした速度で子守歌のようにマンドリンが歌う静かな曲だ。聴いていて誰でも心落ち着くいい曲だと思う。難しい曲でもないので、私も弾いてみたくなった。アンコールにも弾かれた。演奏会の最後にこういう余韻を残す曲で締めくくるはいいと思う。

2曲目は中野二郎のニ短調第二幻想曲
初めの所は早い速度で音が上下に絡み合う。ハイポジ部分も音が明確で私のような素人では真似できそうにない。中間部にかかると、音が少しソフトになったと感じて、よく見たらなんとピックでなく指で弾いていた。ギターも弾いていた中野氏らしい曲だ。この部分、本当に上手く自然にギターのように柴田氏がつま弾く。これには驚きだ。ギターより弦圧が強いので、綺麗に弾くのは並大抵ではない。恐らく柴田氏はギターも上手いだろうと推測される。

3曲目は野口雅巳の旋回アレグレット
これは単音で本当に音型が旋回を繰り返すような曲。マンドリン関係者以外の人なので音色の変化とかはあまりつけない曲なような気がした。いかにも現代音楽という感じ。

4曲目は石橋 敬三のdeep obsessioion
これは彼が23歳の頃の作品。いつものアコースチックギターをかき鳴らすような曲かと思ったら、真っ当な芸術作品でビックリ。新しい表現を追求したいという強い意欲が感じられる曲で、マンドリンのあらゆる奏法が散りばめられた曲だ(ブリッジを叩く、ヘッド部分の絃を弾く、テルピース部分の絃を擦る等)。マンドリンでこんな事もできるんだという事を知らせるにはとてもいい素材だと思った。

休憩を挟んで5曲目は 田口 和行のa frozen doll
これもマンドリン関係者以外の作曲。作曲者によればマンドリンの冷たい音に特化した曲だそうだ。
出だしの聴こえるか聴こえないか程のピアノから圧倒的なボリュームのフォルテまでのダイナミックレンジの広さが印象に残った。これは真似できない。冷たい音というが、私の感覚ではそんなに冷たいかなと感じてしまった。もっとぶっきらぼうに荒くそっけなく弾いた方が冷たい感じになるのかな。作曲者の「冷たい」という感覚がどういうものか理解できないので、この曲の意図が解らなかった。

6曲目は久保田 孝の「エレジー」
これは奇をてらった技法はない。豊かな重音がメインの曲だった。響きが豊かで、本当に壮大な感じの独奏曲だと思った。技術的にはフレットを押さえにくい重音があるように見えたが、さすがきちんと押さえ込まれ、耳障りな音が一つもなく、重奏のトレモロもムラがない。最後まで気持ちよい演奏だった。これも弾いてみたい曲の一つになった。

7曲目は桑原 康雄の「じょんがら」
津軽三味線のじょんがらを思わせるモチーフが随所にある曲だ。津軽三味線を題材にしたマンドリン曲なんだけど、津軽三味線も評価する私は、あえてマンドリンで弾かなくてもと以前から思っていた。まあマンドリンの表現の可能性を追求するという事なら評価できるのかな。柴田氏の演奏自体は素晴らしかったのだが、個人的にはマンドリンでこの曲を弾きたいとは今も思わない。弾くのだったら三味線でじょんがらを弾いてみたい。

この演奏会を終わって、日本人の独奏作品も聴いてみよう弾いてみようかなというきっかけにはなった。それだけでも柴田氏に感謝したい。夜桜の中の演奏会いい思い出になりました。

今日15日は翌日なのに札幌で同プログラムで演奏会が開催されます。22日は京都でも公演があるようなので、関西の方は聴きにいらしたらいいと思う。

そうそう忘れてはならない事があった。演奏中ブーブーという携帯の着信音が二度も聞かれた(恐らくメールの着信音、前方左客席)。周りの人だけでなく、演奏に集中している奏者にも大変失礼な事である。よく柴田氏が切れなかったと思った。皆さん演奏中はマナーモードか電源を切るように徹底しましょう。