西武渋谷店が九月末で閉店するらしい。
大学生の頃、渋谷はセゾングループを中心に若者文化の発信地だった。
バブル期だったこともあり、街には独特の高揚感が漂い、公園通りを行き交う人々は皆ファッショナブルで表情は明るかった。
西武百貨店やパルコからは斬新なコピーが次々と生まれ、コピーライターという職業が脚光を浴びていた時代だった。
そんな当時の広告業界に憧れていた僕は、大学生活が始まるとすぐ「広告研究会」へ入部した。
週に数回の勉強会では、想定クライアント向けの企画を考える等、真剣に“広告を研究する”活動が中心だった。
ある日、プロのコピーライターをお招きした勉強会で、突然課題が提示された。
「京都の鴨川にゴミが捨てられて困っている。京都市からの依頼だと思ってコピーを考えてください。」
いきなりの課題に参加者からは駄作が続いた。アイデアが尽きかけた頃、先輩のひとりが口にしたのが
“鴨川に空き缶が流れる日”。
これは実際に使えそうだと講師の方から高く評価されたのを今でもよく覚えている。
ふと気になり、現在の鴨川のゴミ問題を調べてみると、状況は当時より深刻化しているようだ。
観光客の増加、夜間の飲酒、家庭ゴミの持ち込みなど、要因は複雑に絡み合っている。
残念ながら、あの頃のような行間を感じさせるコピーは、現代では通用しないだろう。
1980年代は、日本という単一の文化圏で、価値観や道徳観がある程度共有されていた最後の時代だった。
現在は価値観が細分化し、道徳観は揺らぎ、外国人も急増した。日本語の曖昧なニュアンスや比喩が通じない層も多い。
今もっとも効果的なコピーは「ポイ捨て禁止」という、身も蓋もないほど直接的な言葉なのかもしれない。
渋谷の街が変貌したように、社会の根底にあった共通の価値観は、いつの間にか崩れ去り、日本人という輪郭さえ曖昧になってしまった気がする。