髪結新三 | 八海老人日記

髪結新三

(髪結新三の家の場面 左が新三 右が大家の長兵衛 押入れにお熊)


 「何事も言わぬが花の山吹や 昔ながらの黄八丈 十両に五両で十五両 貰う鰹の片身さえ 名も刺青の藍上り」。ご存知、芝居小唄「髪結新三」である。歌舞伎での題名は「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)」。明治六年、河竹黙阿弥が書き下ろした世話物で、五世菊五郎がイナセな新三を演じ、大当たりを取った。


 芝居の粗筋は、江戸深川の材木問屋白子屋の娘お熊は黄八丈の着物がよく似合う器量好であるが、家の主が亡くなり、妻女が女主人で切り盛りしてきたが、次第に身代が傾いたため、お熊に持参金付の婿を取ることになった。所がお熊は既に手代の忠七と人目を忍ぶ仲となっていた。


 お熊と忠七の秘密を嗅ぎつけたのが床店を持たない髪結いの新三。実は新三は刺青者(前科者)で、もぐりで髪結いをやっているが、一皮剥けば、人の弱みに付け込んで強請り騙りを働く根っからの悪であった。早速新三はお熊と忠七を唆し、二人に夜の闇にまぎれて駆け落ちすることを勧め、二人がその気になって永代橋の近くまで来ると、そこで本性を現し、忠七を殴り斃し、お熊を担いで深川の我家へ連れ込み、猿轡を食わせて押入れに放り込む。お熊をさんざん慰んだ上、女郎に叩き売る積りであった。


 翌朝、新三は、かつお! かつお!の売声を聞き、大枚三分(今の金で約6万円)

を叩いて初鰹を一本買い、これを刺身にして朝から一杯やる積り。そこへ浅草乗物町の源七親分がやって来る。親分は、橋の上から身投げしようとしている忠七から訳を聞き、新三からお熊を取り返すため手切れ金十両を持って来たのであるが、新三に散々辱められ、金も投げ返される。


 困り果てた白子屋の女主人は、新三の家主長兵衛に泣きつくと長兵衛は三十両で引き受ける。悪の新三も、老獪な長兵衛には歯が立たず、三十両でお熊を返すことを承知する。長兵衛が新三に、「鰹は片身貰ってゆくぜ」と謎めいた事を言い、新三には十五両しか渡さず、あとの十五両は自分の骨折り賃で取ってしまうのであった。この場面が冒頭の小唄で唄われているのであるが、出だしの三味線が「さつまさ」の三味線になっているのは、この芝居の出囃子が「さつまさ」の三味線だからである。この小唄は新内調で、歯切れよく唄うのがコツであると木村菊太郎の「芝居小唄」に書いてある。髪結新三の小唄はまだ他にもあるが今回はここまで。