小唄人生
9月17日(日)、グランドアーク半蔵門で催される新橋・胡初奈開店四十周年記念演奏会で、「二年越し」を唄うことになった。この唄は、伊東深水作詞、千紫千恵作曲の、昭和39年4月に開曲された芝居小唄で、初代中村鴈冶郎の十八番、近松門左衛門作「心中天の網島」の中の「炬燵の段」から題材を取ったもの。
「心中天の網島」の紙屋治兵衛と曽根崎遊郭の遊女・小春の心中物語を題材にした小唄は幾つもあって、5月28日のブログに書いた「網島心中」もその内の一つである。草紙庵作曲のこの唄は、万策尽きた治兵衛と小春が、手に手を取り合って死にに行く最後の道行きの場面を唄ったものである。
千紫千恵作曲の「二年越し」は、園八節が得意な作曲者が、園八の名曲「小春治兵衛炬燵の段」から園八の手を取り入れて作曲したもので、開曲した時は、昭和の名曲と称えられた。大阪の商人・紙屋治兵衛の女房おさんは、夫がここに年越し廓通いを止めないため、借金で首が廻らなくなり、夫に愛想づかしをして廓通いを止めさせてくれと小春に手紙を書いて頼む。小春は、或る大尽から身請されることになり、心ならずも治兵衛に愛想づかしをする。可愛さあまって憎さ百倍。関の孫六という刀で小春を殺そうとするが、兄の孫右衛門に止められる。叔父が来て、二度と小春に会わないと誓詞を書かされるが、帰る叔父の見送りもせず炬燵布団を被って寝てしまう。おさんが布団を撥ねのけると、治兵衛は顔中涙で泣いている。おさんは治兵衛の胸倉を取って口説く。
小唄の文句は、「闇の夜の 情けと義理の板ばさみ 門送りさえそこそこに かむる布団の格子縞 覚悟を秘めし置炬燵 あんまりじゃぞえ治兵衛どの それほど名残が惜しくば なんで誓詞を書かしゃんした さりとは邪険な胴欲なと 愚痴も涙の二年越し」。
唄い方は、前半は園八の手に乗って、しんみりと情緒たっぷりに唄い、後半の科白からは、小春に激しく悋気するおさんの気持ちになり切った積もりで唄う。