小唄人生
江戸小唄に出てくる言葉で何気なく使っていますが、調べてみると夫々故事来歴があって、面白いのが幾つかあります。今日はそれを御紹介します。
『三千世界』=高杉晋作が品川の色町で流連(いつづけ)している間に作ったと伝えられる小唄に、「三千世界の烏を絞めて 主と朝寝がしてみたい」というのがありますが、その頃の品川には烏が沢山いて、毎朝カアカアカアとうるさいことだったのでしょう。ところで、「三千世界」というのは仏教語というのをご存知ですか。三千というのは千の3乗(10億)ということで、それほど多くの世界という意味で、つまり宇宙のことです。さすが言うことがでっかい。
『派手』=江戸初期、三味線が普及し始めた頃、ある検校が三味線のいい手を作ってこれを広めた。降って元禄時代に、京都の三味線の大家・柳川検校が、新しい賑やかな手を作って、これが流行した。そこで古い派の人たちは、自分たちが本手で新しい手を破手と言って軽蔑した。この破手というのが、いつの間にかけばけばしいというという意味に使われるようになり、「派手という字が使われるように」なった。
『野暮』=武蔵の国に谷保天神という神社があって、これが江戸の真ん中で御開帳をした。それが如何にも田舎臭い御開帳だったので、当時の江戸っ子は、「神ならば出雲の国に行くべきを 江戸で開帳やぼの天神」と狂歌を詠んでからかった。それ以来田舎くさい人を、やぼとかやぼてんとかいうようになり、「野暮」の字を当てた。ホントカネ?
『からくり』=平安時代に外国から輸入された細工仕掛で、紐で操る人形を「からくり人形」といった。それを略して「からくり」と呼ぶようになった。「からくりの ぱっと変わりしお前の心 陰で糸引く人が居る」という小唄はよく唄われる。
『十八番(おはこ)』=江戸末期、七代目市川団十郎が、市川家に伝わる当り芸(主に荒事)十八番を整理し、芸の秘訣を書き込んだ本を箱に仕舞って大切にしたことから出た歌舞伎言葉で、得意な芸という意味で江戸末期ころから使われるようになった。
『愚痴』=ものの道理が分からないという意味の仏教語「モーハ」を、三蔵法師が「愚痴」と漢語に訳して中国へ持ち帰った。552年に仏教が、百済経由で日本に伝来し、これを「ぐち」と音読みにした。江戸時代になって、言っても仕方のないことをくどくど言う意味に使われるようになった。
『岡惚れ』=「岡」という字には、「岡場所」、「岡っ引き」、「岡焼き」 などのように、本物でないという意味がある。よって「岡惚れは」、相手の上辺だけを見て、勝手に惚れることを言う。