小唄人生
6月10日(土)午後二時から、新宿の堀川で催された蓼静奈美師匠一門のゆかた浚いにゲストとして招かれた。私を入れて天声会の小唄仲間が十人ばかり参加した。静奈美さんの会には、昨年のゆかた浚いから呼んで頂いているが、師匠始め皆さん気さくで肩の凝らない楽しい会である。昨年の会場は、神楽坂の鰻割烹・志満金だったが、今年のお弾き初めから、新宿の堀川でやるようになった。
当日、私の出し物、平田環さんの唄・辰巳の左褄の三味線を弾かせて貰うのと、室橋さんの糸で青いガス灯を私が唄うのが捨番で、本番は、定九郎と逢うは別れを会主の糸で唄わせて貰うことになっていた。捨番の辰巳左褄の三味線は、暗譜が間に合わず、譜面を舞台に置いてそれを見ながら弾いたが、歳のせいで、眼鏡を掛けても細かい音符がよく見えず、所々飛ばしてしまってお粗末であった。
それよりも大失態は、本番の定九郎。忠臣蔵五段目の小唄が三っつあるなんて、夢にも思わなかった。ぶっけ本番だけど何とかなるだろうと、前引きを聞いて勢いよく唄いだそうとしたら、三味線が全然違う。「アレッ音が違いますよ」と言ったら、「五十両じゃないの」って言うから、「違います。破れ傘です」と言って譜を見せたら、こりゃ駄目だ、というので代わりに初雪を唄ってお茶を濁したら、師匠弾き終わって「オー寒い」
だって。そしたら世話役の人が、「冷房止めますか」って言うもんだから師匠の一言「ジョークの分からない人ね!」で大笑い。後で木村菊太郎氏の「芝居小唄」で調べたら、忠臣蔵五段目の小唄は、「当った、当った」、「五十両」、「破れ傘(やれがさ)に」の三っつがあることが分かった。勉強不足。
小唄のお浚いが終って宴会。宴酣の頃、師匠からゲストに、そろそろ何か出してと声が掛かる。師匠は人使いが荒く、ゲストは余興をやらせる為に呼んだと云わぬばかり。それではと覚悟を決め三味線抱えて舞台に上がり、女性に些か失礼な唄を弾き語りでやらせてもらいますと前口上を述べ、長生松次さん作詞作曲の「髪は黒髪富士額 色は白くて餅肌で 眼元涼しい細面 花の蕾の口元に 零れる笑みの艶やかさ
立てば芍薬坐ればぼたんよ 歩く姿は百合の花 情け深くて辛抱強く 頭が良くて芸達者 お前さんのためならなんのその 使っておくれとポンと出す そんな女がいるわきゃない マズスクナイネ」と唄ってやったら、前列で聞いていた師匠が、「ここにいるよ」と叫んだので爆笑。あとのゲストと交替し、室橋氏の「相撲甚句」、山田氏の立方で「心して」の小唄振りで最後を飾ってお開きとなった。