教育基本法
13日、自民、公明両党による大論争の末、教育基本法改正案の与党案が纏った。改正案の要点は、①教育の目的について現行法(昭和22年制定)は、個人の資質を育むことに偏り過ぎており、新たな目標として郷土愛、祖国愛の育成を盛り込む。②「生涯教育」、「家庭教育」、「幼児期の教育」、「学校、家庭及び地域住民等の連携協力」などの条文を新たに追加した。
自民党・武部幹事長は、早速、安倍内閣官房長官に与党合意案を提示し、今国会での成立を目途に法案作成を急ぐよう要請した。安倍官房長官もこれを受けて、直ちに法案化作業を進めたいと応えた。
今回の与党合意による「教育基本法改正案」の最大の問題点は、自民・公明両党が膨大な時間を掛けて議論した、教育目標としての「愛国心」明記の問題である。最近有識者の間で、戦後60年、道徳の荒廃が目立つのは、教育の基本が間違っているからではないかと指摘され、中曽根元総理などを中心に、教育基本法の見直しが叫ばれるようになった。そして新たに教育目標として「愛国心」の明記を主張する自民党案に対し公明党は、「愛国心」はナショナリズムを誘発するとして強く反対した。ベストセラー「国家の品格」の著者・藤原正彦氏も、明治以来の忠君思想に繋がる「愛国心」などと言う言葉は、今すぐ廃語にすべきだと新聞記者に語っている。結果として与党合意案は、「郷土愛、祖国愛」という表現になったが、これで国会で承認成立するかどうかは疑問。
というのは、国会議員の間で、超党派による議員連盟、「教育基本法改正促進委員会」というのがあって、教育目標としての「愛国心」明記を強く主張しているからだ。「教育基本法改正促進委員会」とは、教育基本法改正機運を高める目的で、超党派による国会議員をメンバーとし、今年の2月に設立されたもので、森喜朗前総理を最高顧問、亀井郁夫参議員議員を委員長とし、平沼赳夫、町村信孝、麻生太郎、西岡武夫、西村真吾などが顧問に名を連ね、国会議員378名が参加、どちらかというと国粋主義的集団で、改正案の教育目的に「愛国心の涵養」が明記されない場合には議員立法も辞さないという構えだ。
教育基本法改正促進委員会が、何故これ程迄に「愛国心の涵養」執着するのかというと、促進委員会の主流が「教育勅語」の信奉者だからである。日本の国体は、天皇を中心とする忠君愛国が根本理念で、それが道徳の基本とされる。戦後はそれが崩れ、そのため道徳が荒廃した。だから教育の目標に「愛国心の涵養」を掲げることが必要だという訳である。教育基本法改正促進委員会の設立総会で西村副委員長は、「愛国心教育」で「国のため死ねる人」を作り、そして「国のため死ねる人が戦う機構」即ち国民の軍隊を考えなければならないと述べた。公明党が考えた素朴な「祖国愛」とは、鷺と烏の違いである。国のため命を捧げた人があったからこそ、今の祖国があるのだと子供に教えることが大事だとも述べている。
憲法を改正して自衛軍を創設し、国のため死ねる国民を作り上げる。これは再び日本国民を戦争に駆り立てる軍国主義教育だと言われても仕方がないようだ。それに、再び徴兵制度の復活が匂って来る。こんな情勢を前にして、日本の若者達はこれでよいのかと問いたい。天皇の名のもとに日本人が多く犠牲になったから今日の日本があるのではない。生き残った者たちが必至で働いたから今日があるのだ。政治家たちの不条理を許すべきではない。教育の目的は真、善、美の追求でなければならない。