日本の文化ナショナリズム
国際日本文化研究センター教授・鈴木貞美博士の最近の著書・「日本の文化ナシヨナリズム」(平凡新書税込903円)が面白そうなので、ブックセンターへ買いに行ったら、売れ切れで新しく取り寄せになりますというから注文したら10日ほどでやっと手に入って読み始めた。
鈴木博士の所論については追々触れてゆくが、その前に、3月19日のフジテレビの「報道2001」を見ての感想を一つ。出演した一部の論客が、靖国神社は「国のため命を捧げた英霊を祀ってある」と述べていたのが気になった。これは正確ではない。正しくは、1853年以降の国事殉難者、具体的に言うと《天皇》のため命を捧げた者+東京裁判のA級戦犯の霊が、一人々々名前を記されて祀ってあるので、明治政府によって創られた「天皇への忠」の思想の象徴であり、明治4年、政府によって定められた国家神道と深い関係がある。中韓の指導者たちが、小泉総理の靖国参拝に反対しているのは、彼らの反日教育せいばかりでなく、日本における軍国主義ナショナリズムの象徴である靖国神社に一国の総理が参拝する事なのである。
鈴木博士は先ず、軍事、政治、経済などのナショナリズムは、その時々の政策によって変わり易いが、文化ナショナリズムは強い力を持ち、何十年、何百年経っても中々変わらないことを指摘する。文化ナショナリズムは、屡々伝統と同一視され、長い年月の間に地域の生活に密着し自然に発生したもので、みだりに変わらないし、変えられないものというイメージが強い。ところが、歴史を支配する伝統的文化の力に着目するイギリスにおける最近の研究によると、伝統と見られるものの多くは、実は、発明されたもの、創られたものだという。例えば、日本における神前結婚や初詣の習慣は、明治時代に新しく作られたもの。また相撲が日本の伝統的国技と呼ばれるようになったのは、明治のころ本所・両国の回向院境内に新しく相撲興行の常打館が建てられてからだという。
鈴木博士は、また、日本の天皇制も時代の権力者によって発明されたものだと言う。天孫降臨の神話から始まって、万世一系とか神国思想とか八紘一宇とか、日本人の多くが頭から信じている或いは信じ込まされていたことが、実は作られた伝統であり歴史であったと言う。そして日本がこれら日本の文化ナショナリズムに引きずられて、第2次世界大戦の敗戦に追い込まれた道筋については、次回以降で触れてみたい。