観泉寺の四季 | 八海老人日記

観泉寺の四季

晩秋  昨年の終りまで会社勤めだったので、観泉寺のお庭を散歩する気には中々なれなかったが、お勤めを辞めた今年は、ゆっくりこの寺が眺められる。枝垂桜や寒牡丹はわりかし有名だから観に来たことがあるが、晩秋の庭を眺めるのは、初めてかもしれない。公孫樹も紅葉も、もうあらかた散ってしまったが、屋根に溜まった落葉が秋の名残を留めている。三百五十年このかた境内に並んだ今川家先祖のお墓や六地蔵にも、なんとなく秋の静けさが漂っているような気がする。


 春には、鐘楼を背にした枝垂桜が美しい。ここの鐘楼は、以前、藁葺き屋根で、枝垂桜と良く似合ったが、数年前に瓦葺に改築された。大晦日に年越し蕎麦を食べていると、除夜の鐘が鳴り出す。それから、2月頃の寒牡丹が綺麗で、よく観に行った。そういえば、牡丹の異名を名取草と言うと、木村菊太郎の「芝居小唄」の中の助六の解説に出ていたのを思い出した。「春霞」という小唄に出てくる「東男の扮装ちは間夫の名取の草の花」の意味が解けた。助六は揚巻という吉原一の花魁の間夫(情人)で、二代目団十郎の当たり役。

そして名取草即ち牡丹は団十郎の紋所である。


 観泉寺の夏の印象は、昼尚暗い鬱蒼とした林の中を吹き抜けてくる風の涼しげなこと。昼間歩いて汗ばんだ身体が、この森林浴な中に入ると、オゾンを吸ったようにほっとする。林の中では、色んな蝉が鳴く。やがて蜩が鳴き出す頃になると、そろそろ秋が近づいてくる。