競馬場に付いたころ、あたりはすっかり霧に覆われていました。

いま考えてみると競馬場の真ん中は遊水地(川の氾濫を抑えるための)にも

なっていたのであんなに濃い霧が出たのかもしれません。


濃い霧が辺りを覆っているなか私は

競馬場の砂の上を一人で走り始めました・・・


私の視界は10メートルも先になると白い霧の壁に

さえぎられてしまい、まるで雲の中にでもいるかのような感覚で

不思議な感じのする霧の中の風景は今思い起こすと

なにか奇妙な通常の日常世界とは隔絶された空間で

・・・なにか不思議なことがおきて当たり前のような

そんな奇妙な感覚を感じさせられていたように思います。


さくさくと砂の上を、霧の海をかき分けるかのように

走るのは思ったより爽快で楽しいものでした。

この霧がもっと濃くなれば楽しいのにとすらそのときは

考えていたように思います。


そんなこんなで競馬場のトラックを1周走ったところで

ふと奇妙なことに気が付きました・・・

いつもはトラックを一周する間には、ほかのジョギングを

する人の姿を数人は見かけるものですし・・・

犬の散歩をする人なども見かけるのが普通です。


・・・しかし、誰も見かけませんでした。

そうたったの一人もです・・・


しかしまだ私はそれが怖いとは感じず

漠然とした不安を感じながらも

一緒に走る予定の友人も「今日は走らない」と出てこなかった

こともあって「霧だからみんな走るのをやめたのかな?」

とそんな風に考えながらそのまま走りつづけました。


しかし、霧はいっそう濃さを増し、もう数メートル先は

白い霧の壁に隠れてしまうほどになっていました。

こうなってくると奇妙なことにいつも走っているはずの

場所なのに同じところを走っているとは思えなくなってきました

特に近くしか見えなくなった競馬場のトラックの中は

風景も変わらない何も無い長い通路のように感じられるのです。


そんな中、後ろに「さくさく」という誰かの走るような音が

し始めました・・・