安西水丸「イラストレーター 安西水丸」(クレヴィス・2500円+税) | 野球少年のひとりごと

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本のことを中心に、関西学生野球や高校野球のことをつぶやいています。
また、父・洋画家「仲村一男」の作品を毎日紹介しています。

午前中に、いつもいろいろの種類の野菜をたくさん届けてくれるTさんが、収穫コンテナいっぱいの蜜柑(温州蜜柑)を持参で来られる。昼前を気にされたのか書斎には通らず、玄関前の立ち話で帰られる。隣に住む次男一家の年始を別にすれば、ことしはじめての来客である。同居する娘夫婦一家は、岸和田の海岸沿いにあるショッピングモールに出かけている。孫娘たち(小学5年になる双子の)のスニーカーや何やかやを買う(ABCマートやユニクロが入っているので)つもりのようで、食事もそこで済ますのであろう。進学塾が今日明日と休みなので孫たちもゆっくりしている。

 

本の話である。いま読んでいる、安西水丸「東京美女散歩」(講談社文庫・780円+税)に実に頷かせられる、彼の生き方スタイルといった話が出てくる。以下に引用する。

 ある新聞から、これは苦手だという言葉について書いてくださいと依頼され、選んだ言葉が「芸術」だった。さらに突っ込めば、ぼくは自分が芸術家であるなどといって憚らない人間が大の苦手なのだ。自分の耳を切り落としたりする画家も気味が悪いの一言だ。音楽に合わせて人前で絵を描くことなど命じられたら、それは死刑宣告に等しい、肉親がそんなことをやったら自殺する。まあそんなことを書いたのだ。掲載された新聞が届いた時、ちょっと書きすぎだったかなと(本来小心なもので)、やや気にかかった。そんなぼくに、イラストレーター界の重鎮であり敬愛する先輩、和田誠さんからfaxが届いた。……記事面白く読みました。同感です。/faxにそう書かれていた。よかったと、胸を撫でおろした。うれしかった。

 わたしが安西水丸、そして和田誠の仕事(特に、小説やエッセイ)を好むのも、おそらくそういう感覚を嗅ぎ取ってのことだと思う。父をふくめ身内に画家が4人もいて、父を除く3人には父ほどの厳しさは皆無だった。仕事柄たくさんの絵描きと会ったが、絵を描くという本来「知的」な仕事をしているのにかかわらず、「知的」と感じさせられる人は少なかったように思う。勿論、作品が素晴らしければ話は別だが、作品そのものに魅力のあるひとも残念ながら少なかった。ひとつの時代に何人も才能をもつひとが現れるわけではないが。ただ、恥ずかしくもなく「芸術家」あるいは「アーチスト」などと宣う、厳しい言い方をするとそういう人がいやに目立った気がする。わたし自身、40台の半ばで絵描きになるのを諦めたが眼だけは鍛えられたと思っていて、なかなか感心する作品になかなか出会えなかったのは事実としてある。

 今日紹介するのは、安西水丸のイラストレーターとしての作品集である、「イラストレーター 安西水丸」(クレヴィス・2500円+税)と、彼が敬愛する和田誠とのコラボ作品である「青豆とうふ」(中公文庫・900円+税)の2冊である。

 

安西水丸「イラストレーター 安西水丸」 一本の水平線 安西水丸、待望の初作品集! 描くことが好きで絵のことばかり考えて生きてきた。 書籍の装丁、雑紙やポスター、小説やエッセイの執筆、絵本、漫画、翻訳……。多様な活動をしながらも「イラストレーターであることの誇り」を常に持ち続け、ひとつの時代を風のように駆け抜けた作家の軌跡を辿る。

 魅力のある絵というのはうまいだけではなくて、やはりその人にしか描けない絵なんじゃないでしょうか。だから、そういうものを描いていきたいなと思います。

Chapter

1 ぼくの仕事

  小説 装丁・装画 エッセイ 漫画 絵本 雑紙 ポスター リーフレットほか 広告・立

      体物

2 ぼくと3人の作家

  嵐山光三郎さんと 村上春樹さんと 和田誠さんと

3 ぼくの来た道

  絵を描くことが遊びだった―千倉のこと

  学生・デザイナー時代―イラストレーター前夜

  青山のアトリエ 鎌倉のアトリエ

  ぼくの好きなもの 水丸散歩道

4 ぼくのイラストレーション

 

和田誠×安西水丸「青豆とうふ」 バトンのように渡された「お題」はどこへ向かうのか? 互いのことばを、しりとりのようにつないで紡いだエッセイ集 <文庫版のあとがき>村上春樹 

 ひとつの時代を築いたふたりのイラストレーターが、互いの文章と絵をしりとりのようにつなぎながら紡いだエッセイ集。愛する映画や音楽について、旅や身辺のできごとなど、「お題」に導かれて思いがけず飛び出した、多彩な話のかずかず。カラー画満載の贅沢な一冊。

 

 

作品は、「ストラス・ブール・ド・サニー」
油彩 318×410センチ(1982)


「洋画家 仲村一男」のホームページ

 http://www.nakamura-kazuo.jp/