ドラマのようなワンシーン、こんな現実離れしたようなことが自分の身に起きている。
漫画ならキラキラとしたシーンで描かれ、主人公の若い女の子が頬を染めてうるうるとした眼で彼に向かって頷くか、手を口にあてて目から涙を流しているようなそんなシーン。
現実?本当に現実?私、夢見てない?白昼夢?
彼の真剣な顔を見れば見るほど、この状況を信じるという事が出来ずにいる自分と対面してしまっていた。
くどいほどの猜疑心と、くどいほどのドキドキ、ふと気が付いた、今の事よりも、これから先の失敗を恐れている自分がいることを。
失敗とは何?
彼に振られてまた一人になること・・・。
まだ始まってもいないのに、既に終わりを考えて踏みとどまり、そこより前に進まずにいる自分の傲慢が今の猜疑心を煽りたてていた。誰からも傷つけられたくないと、臆病になり前に進もうとしてないのだ。前に進まなければ、目の前に落ちている宝物を拾い上げることは出来ないのだ。前に進もう。


「前にすすまなきゃ・・。」


心の中で呟いた言葉が、声となって出てしまっていた。


「それは、俺への返事ってとらえていい?」


「私、本当はまだ疑っています。でも・・、あなたへの私の気持ちは、変わらない。だから・・・、私は私の気持ちに正直でいようと思います。私は、すぐに年齢の事を考えてしまいます。ここで失敗したら後がないって・・。でも、踏み出さなかったら、失敗どころか、何にも始まらない事に気が付きました。なら、失敗を恐れて前に進まないよりも、あなたとの未来を動かしてみたいと思います。だから・・だから・・。」


それ以上は何も言わなくてもいいと言うように、彼は握っていた手を持ち上げ、両手で包み私の手を自分の手の平に重ね、指を絡ませてもう一度ギュッと握ってきた。


「離す気はないからね。俺が画面の中で椿さんが嫌だと思う事をしていようとも、それは俺であって俺じゃない。忘れないで。」


そう一言いうと、私に笑顔を向けていた、そこにはいつもの不敵ないたずらっ子の笑顔があった。


「ここ、トイレの前ってとこが気にくわないんだよな~~。良いセリフも流されて終わりって感じがするし・・・。腹も減ってきたし、神社の境内の茶屋でお昼一緒に食べたいんだけど、時間ある?」


彼は、照れ隠しのような一言を言ってから、ここを出る提案をして来た。


「ありますけど・・。」


「じゃ、行こう!!」


すぐにでも手を引っ張って出ていこうとする彼に、


「ちょっと、待ってください、この本まだ貸出の処理してないんです!!」


と訴えると、


「しょうがないなぁ、手錠外してあげるから、すぐやっておいで。ここで待ってるから。」


「手錠って・・・。」


ずっと繋いでいた手を離すことをためらうように彼は離し、私は急いで本を借りに機械へ向かった。
後ろを向いている間に彼はいなくなってしまっているんじゃないかと、不安に思いつつ貸出処理をし、振り向けば、彼は同じ椅子に座ったまま私が戻ってくることを待っていた。


「終わりました。」


「じゃ、行こうか。」


さすがに手は繋いでは行かないが、彼の歩調に合せるように私は彼と一緒に図書館を出た。
彼と出会う宿命、そして、彼と進む運命。
恋におちた図書館、そして私は彼と新しい運命の歯車を回すために図書館から一歩を踏み出したのだった。


終わり


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