花に見とれていた私の側を、誰かが通った。ここは神社の参道、誰が通ってもおかしくはない、別段気にせず梅の小さな花の色と、香りを、もっとよく感じていたいと木に一歩近づこうとした時、通り過ぎたはずの人物からか、声がかかった。
「あれ?・・・もしかして・・・人違いだったらすみません。ちょっと前にお会いしたことありませんか?」
突然かけられた声に反応し、かけた人物の顔を見たが、マスクと軽い色の入ったサングラスを付けているせいで、知り合いなのか、はたまた変質者なのだろうかと、首をかしげ、目を白黒させながら、かけられた声色と体格から、人物をわりだそうと、頭の中をフル回転させている私に向かって、
「やっぱり、そうですよね。図書館で少しお話した方ですよね。うわ~、偶然!!」
子どものように少しはしゃいだ声が、困惑し続けていた私に向かって投げられた。
”としょ・か・ん・で・・・・!!”
そのキーワードで、一気に頭の中に電流が走ったように、目の前の人物の正体がわかり、
「ああっ!!」
と思いもかけず、どでかい声を上げてしまっていた。
自分のドデカイ声に自分自身が驚き、慌てて口を押えてみてももう遅い、サングラス越しに見える彼の瞳が見開いていた。
「びっくりさせてしまってすみません。でも、僕も驚いていて、まさかまた、ここで会えるなんて、こんな偶然
に声をかけずにはいられなかったんです。」
私の驚き具合を気にしてか、少し遠慮がちな言い回しで、声をかけずにいられなかった気持ちを、私に伝えてくれたのだった。
私は、あまりの嬉しさと、驚きとで、体が震えドデカイ声一つしか上げられず、目からなぜか涙が落ちてきた。
よくテレビ番組で、芸能人に会った人が、感極まって涙を流している姿をよく見ていたが、まさか自分もそうなるとは、思いもしなかった。
「うっ、嬉しいっ・・夢みたい・・」
出てきた言葉は、案の定気の利いた言葉ではなく、通り一辺倒のセリフのみ、素人が何かかっこつけようとしても、頭の中にある引出しに、しゃれた言葉など詰め込まれてはないのだと、突き付けられるだけなのだった。