そんな通り一辺倒な返答でも、サングラス越しにみえる目はキラキラとした表情に変わり、マスクでくぐもった声ではあるが、


「よかった~。覚えていてくれてたのですね。僕も嬉しいですよ。」


と偶然の再会を、彼も喜んでいたことがその声から伝わってきた。


「ところで、これから神社に参拝されるのですか?僕は今から参拝をするんですが、もしもその予定ならご一緒しませんか?ふふっなんだか某番組の家族に乾杯みたいだなっ。」


ウキウキとしゃべる彼に、あなたに会いたくてもう一度参拝しようとしていたなんて、さすがに気が引けて言えなかったが、


”ご一緒しませんか?”


と御誘い文句が入ったことに、気が付いた時には天にも昇るような心地で、多分今まで一度としてしたことが無かったような、とびきりの笑顔と、可愛いらしい声のつもりで


「はい、喜んで」


と答えていた。さっきまでの曇天空と同じ気分だったのに、今や晴れやかな青空の気分を通り越して、ハワイのような南国の甘い香りがしそうな眩い青空の気分に変わっていた。我ながら現金なもんだと心内で思ってはいたが、誰にでも訪れるようなシチエーションではない状況に、自分が彼にとって特別な存在に変わっているのではないかと、妄想を繰り広げるには充分なシチエーションだった。
彼と一緒に境内に上る階段は、さっきまでの修験者のような階段ではなく、シンデレラが王子に見初められて共に上る階段のような気分だ。
境内で、共に二拍二礼をし、神に祈った。彼が祈っていることは何なのかはわからないが、私は彼にまた会わせて頂いたこの幸運に、感謝の気持ちを神に伝えたのだった。
フワフワとした気分で、彼と話していた時間、多くの話をしていたはずなのに、何を話していたのか、後からいくら思い出しても、全く思い出せないのだった。

←9    11→