有馬殿とは、この島原治めていた先の藩主 有馬晴信であった、熱心なキリスト教徒で彼が藩主のころに、大村純忠と共に天正遣欧少年使節を送り出すほどであった、しかし、徳川家康のころ、岡本大八の口車に乗せられ失脚と、所領地代えとなり今といたった。その頃に有馬氏に仕えていた、家来たちが今も浪人となり、島原や、天草に住んでいたのだ。そこに、やはり藩主を失った小西家の家来たちと手を組んで、源領主 松倉 勝家 の転覆を狙っていたのだ。


「して、これはまだ決定ではないと言うておったのじゃが、四郎殿の父上 好次殿がの。頃合いをみて、長崎を離れると申しておった。それを四郎殿に伝えていて欲しいと。好次殿の言い方だと、近いうちに決行されるようじゃ。まずは、奥方と妹御を深江辺りに住まわせるつもりのようじゃ。そして、お主は、志自岐原城にと言う事のようじゃ。つまりは、お主は我らの一員として向かうことになる。」


この言葉に、時貞の胸は高鳴った、やっと一人前として皆の為に働けるのだ。運之丞の方を見れば、運之丞の顔も喜んでいた。時貞が城に行くということは、同時に運之丞も行くこととなるのだ。


「じゃがの、浮かれておってはならぬぞ、事は急に行うゆえに、他に漏れ聞こえてはならぬ。内密に運ばねばならぬ。四郎殿は旅立つ直前まで今まで通りの生活をなされ、それ、なんじゃったか・・奉行所の若い・・」


「佐々木殿でございますか?」


「そうじゃ、出来うる限りの情報を引き出しておくのじゃ。間もなくお父上は奉行所を止められる。お父上と奥方様と妹御が先に旅立つことになろう日見の関所があるでの。坂の上の屋敷に残るは、お主と運之丞と数名の家来となるじゃろう。」


「あい、わかりもした。出来うる限りのことをやってみましょう。」


互いの用件が済めば、すぐに屋敷を出た、あまり長居をして勘ぐられるのも困る。浮足立つような気分にもなるが、急な話となれば、事態はあまりよいといえないのだ。戦になるやもしれん。その言葉が、二人の口を重くしていた。


「そう言えば、四郎様。今日もあそこへ行かれていたのですか?昼間から」


「なんじゃ、別に何もしておらんぞ。用があっただけじゃ。あっ、そうじゃ少し遠回りをして屋敷にもどろう。万に水あめでも買って帰るかの。」


「そう言って、ごまかそうとしてもだめですよ。」


「何もごまかしておらんぞ、用があったから行った。それだけじゃ。ん?もしや、そちも行きたかったのか?なんじゃ、姐さんたちに可愛がってもらいたかったのかのう。姐さん達は上手いからの、お主、腑抜けになったもんな。あの時の呆け顔は忘れん。」


「それは、四郎様とて変わらなかったでございませんか?四郎様のお顔も、いつもより呆けておりましたが?」


時貞が、自分より少し身長の高くなった運之丞の頭をベシッっと叩き大笑いした。こんな軽口でも叩きながらでなくば、二人の顔はより深刻な顔になりそうだった。


「運之丞・・・。間もなくじゃな、これからも儂の力になってくれ。」


「もちろんでございます。私の主君は四郎様でございます。」


互いに信頼を確認し、そして笑いあいながらも若い二人の少年は、これからの自分たちの未来が今よりも輝かしいものになるように祈りつつ、不安を胸に押し留めていた。それは残酷な未来に向かい歩み始める第一歩となっていた。


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