赤い色に染まった部屋の中では、悩ましき声が響いている。その声の主は、時貞だ。今日も佐々木の相手をしているのだ。


「うん・・ああ・・・。」


「その声・・よいのう・・・いつ聞いても堪らぬ。じゃが、今日のお主はちと変じゃ・・。」


「佐々木様・・もっと酷く、私を扱って下され・・もっともっと・・あああぁあ」


「これ以上すれば、お主の身体が辛かろう。」


そう言いながら、時貞の耳後ろを舐めあげ胸の突起物をつまみ上げた、ゾクゾクとする快感が、体を巡るが、それが疎ましい、痛いだけが欲しかった、自分の身体を今は、酷く扱いたい心境で、時貞は抱かれていた。



ここに着いた時、いつもなら会釈だけで声もかけない絹姐さんが、ついと近寄り


「佐々木の旦那、ようこそのお越しで。今日も四郎殿とよき時を過ごされるのでございましょう。なれど、その前に私にほんの少しばかり四郎殿をお貸し願いませんか?いえ、寝盗るってわけじゃないんですよ。ちょいと用がありましてね~。」


と佐々木に頼んでいるのだ。四郎が自由に動けないことは十分に承知している姐さんが、こんなところで佐々木に頼むのはなにかよっぽどのことがあったのだろう。白粉の下の表情は読めないが、姐さんがら醸し出されている雰囲気がそれを伝えていた。


「絹姐さんの頼みでは、仕方なかろう・・・・。姐さんの御贔屓に後で願いを聞かなかったと叱られるのは嫌ですからね。」


佐々木の上司がこの絹姉さんの御贔屓なのだ、一度、四郎の事で絹に文句を言ったら、それを上司に伝えたらしく後でネチネチと職場でいたぶられた記憶がよみがえって、嫌な顔をしながらも渋々それを飲み込んだのだ。


「ありがとさん。すぐに部屋に帰しますよって・・四郎殿、私の部屋に来ておくれ。」


時貞は彼女の部屋に連れて行かれたのだ。
障子をピシャッと占めると、周りを警戒しながら、時貞の手を取り、中央の布団の上に押し倒した。


「なっ・・姐さんどがんしたと??」


「しっ、このほうが怪しまれんけんね。四郎ちゃんに教えとこうと思うてさ・・・。」


姐さんの顔を見れば、涙が浮かび上がり、時貞の頬に落ちてきた。


「なんかあったと・・。」


「四郎ちゃん覚えとっやろ、こん間、入って来たばかりだったとよのこと、あん子ね・・死んだとばい・・・。」


この間、時貞が飴をくれてやったあの子が死んだ??状況がつかめなくて四郎の眼が見開かれ、眼球が泳いでいた。


「ようきいとって(聞いて)、あん子、一昨日、あの歳で客ばとらされたとよ・・・。まだ、十そこらの子ばいくらなんでもって、周りの女の子たちが、うちが相手ばしますけんって誘っても、そん男はがんとして譲らんでからさ、宿主の馬鹿野郎が、どうせそのうちここで働かんばいかんとやけん、早かけどよかです。ってあてがったとよ。初めての上に、そん男、うちらでも困るくらいの乱暴者さ、それが初めての相手ばい、相当怖かったとやろうね・・・。店中にあん子の泣き叫ぶ声が聞こえたとよ。もう可哀相で可哀相で・・・。せめて、あん男が帰ったら、他の男に回されんごとしてやらんばねって店の子たちと話寄ったら・・・・。断絶魔が・・・・。殺されたとよ・・・。散々、痛か目にあって、怖か目にあって、そして、殺されるってどうしてね!!あん子ね、四郎ちゃんからもろうた飴の袋ば大事に持っとたとよ。(救世主様からもろうたと)って言ってね。その言葉は言うたらいかんよって言っとたとけどね・・・。男が果てるその時に、口から漏れ出てしもうたらしかと・・・・。あんたば思いながら、耐えとったとやろね。だけん、口から出たとやろ。うちらは虫けらじゃなかとばい、虫けらにも魂のあっとに悔しか~。」


そう言って口びるを噛んで時貞の身体を離した。そして何事もなかったかのように


「それだけたい。ほら、佐々木様のとこに行きんしゃい。今日もしっかり抱かれてこんねよ。そいが、お~ちとうちの仕事たい。」


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