あと少しで、この刺激から一度解放されると快感に身を任せつつあったそんな時に


「夕餉の支度が整いました。こちらに用意しておきます。」


と廊下から声がしたことで、佐々木の手が止まった。


「選りによってこれからというところに、なんと間の悪い。じゃが、腹ごしらえも必要じゃ。夜は長い。」


佐々木が我に返ったらしく、時貞の身体から離れた、グズグズとした感じが残ったままの時貞は、衣を直す刺激でさえも身体が反応する。自分の身体をよく知らぬとはなんと怖いことだろうと今頃になって気が付いても、身体の中の淫靡の炎はすぐには治まるわけもなく、時貞の身体を悶えさせる。落ち着かせるつもりで、小袖から手を差し入れ身体を抱きしめようとした時、指に固いものが当たった。小袖に忍ばせていたものだった。


「佐々木様、用を足しに厠(かわや)に行って参りまする。」


「ん?小便か?そのくらいなら、儂の前で出してもかまわんのにのう。仕方あるまい、すぐ戻られよ、この周りは、かなり危うき者もおるからの。」


下卑た笑いを浮かべつつ、時貞のゾッとするようなことを平気で言う。動揺を隠しきれず顔が一瞬引き攣った。


「佐々木様の前で、失禁せよと?御冗談でございましょう。」


「なぁに、お主ほどの者が、失態を見せながら果てるのも悪うはないと思うてな。」


佐々木の顔には冗談と言えない、異様な表情が浮かんでいた。さすがにその顔を直視できず、背を向けて廊下に出た。大きく深呼吸をし、厠へ急いだ。用を足しに来たのではなく、先日のお小姓上がりから貰った物を使いに来たのだ。それは


『これはな、する前に塗るとよい。じっくり時間をかけてやる者なら、体液が出るまで待ってするかもしれぬが、ことを急くものならば、お主のそこが、十分にほぐれる前にねじ込んでくるやもしれぬ。じゃから、これを塗っておくのじゃ。これを塗れば多少は滑りがよくなり、傷も浅くてすむ。経験者が言うことは聞くものじゃ。』


というきさつから貰ったものなのだ、こつぼの蓋をとり、中身を掌に出して、人差し指で掬いそれを受け入れることになる場所に、丹念に塗り込んだ。


「ああぁ・・。」


その刺激が脳天に伝わり思わず、声が出た、一度身体で覚えた味は、先ほどの刺激も手伝って甘味に身体を駆け巡る。このまま一度、果ててしまいたい。そう思いつつも、厠(かわや)に長居は出来ず、部屋に戻った。ただ、外の空気に少しふれたおかげで、意識の一部に澄んだ場所を作ることが出来た。


「佐々木様戻りました。」


一声かけて、部屋に入ると香が炊かれていた、白檀の甘い香りが鼻をくすぐる、部屋を見回すと奥の座敷に赤い布団が敷かれていた。その傍に香炉が置いてあり、白い煙が上がっていたのだ。佐々木はうっとりとした顔で、時貞を見つめていた。


「逃げられたかと思ったがの。先ほどより、艶が増しましたな。まずは、腹ごしらえをなされい。」


共に食べるつもりだったのだろう、佐々木も夕餉に手を付けずに待っていたらしい。時貞が食べる様子を凝視しながら、向かいで佐々木が食べている、何を思っているのか時折、にやりと笑う。時貞は食べているものの味すらよくわからないまま、夕餉を食べた。

食べた膳を廊下に出すと、待ちきれない様子の佐々木が腕を掴み奥の座敷の布団の上に時貞を組み敷いた。


「これで、お主をじっくり味わえる。」


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