二人の話にひと段落が付いたことを見定め、時貞が口を挟んだ。


「佐々木様、運之丞が大変失礼なことを申しまして、深くお詫び申し上げます。この者、私の父上より私の護衛を務めるようにきつく言われておりますゆえ、私の事で何か心配事がありましたならこうやって額に青筋をたててしまうのです。さぁ運之丞、佐々木様に疑いをかけた旨をお詫び申すのだ。」


時貞にそう言われては、はむかうわけにもいかず、


「佐々木様、あらぬ疑いをおかけいたしたことお詫びを申し上げまする。」


そう言うと深々と頭を下げた。


「佐々木様、これから奉行所の方へ運之丞を使いに出しましょう。このままこの野盗どもの亡骸をここに置いておくわけにもまいらぬでございましょう。本来ならば私が奉行所に使いとして参らねばならぬところですが、この足の怪我が、少し悪さをいたしますゆえ早足も出来ませぬ。」


「し・四郎様!!それではここに残られると?!そのようなこと・・・」


「黙れ運之丞!!佐々木様がここを動かれたら、この者たちを野盗どもが処分してしまうだろう。息のある者もおるのに逃がすつもりか!!我らだけでは力が足りぬ。私とお前が奉行所に行く間にまた狙われては、佐々木様の恩を仇にしてしまうであろう。」


四郎に一喝され、運之丞は渋々後ろ髪を引かれる思いで、奉行所に事の次第と、助人を頼みにその場を離れた。


運之丞が立ち去り、その背中が見えなくなったところで佐々木がまだ、立ち上がらずに地べたに座り込んでいる時貞の前に腰をかがめた。


「運之丞殿はよほど四郎殿が心配ならしい、過保護な親のようじゃ。いや・・・、それとはまた似て異なる感情を持っておられるのか。喉が渇いたであろう水を含みなされ。怪我をした足を診せなさい。」


佐々木は運之丞に阻まれて渡せなかった竹筒を渡し、怪我をしている足の様子を診ていた。その足は透き通るような白い肌をしており、佐々木の元々燻っていた陰の欲に、焔(ほむら)を付けてしまった、何かに憑りつかれたように佐々木の手が、時貞の足を何度かさするように撫で上げていた。そんな佐々木の行動を阻むことなどせず、不敵な笑みを浮かべた時貞は、佐々木が自分の策略に乗って来るよう誘いをかけた。


「佐々木様、先ほど道場で、私の太刀筋は悪うないと言うのは、誠でございますか?そして特別に稽古をつけて頂けると。」


「誠じゃ、儂の見立てでは、剣豪にはなれぬが、それなりの使い手には成れよう。運之丞は力はあるが、刀をうまく使えぬ。あの者ではお主の護衛にはなれぬ。しかし、あの力技でもう少し剣技が上手うなれば、一撃で相手を倒せる者になれよう。あ奴の剣技を鍛えるのは儂ではなかろう。儂の剣は、細身で腕の力があまり強うない者が、効率よく相手を倒す剣じゃ。四郎殿の身体とおうておると思うのじゃ。」


そう話しながらも、さする手は止まることなく、それどころか怪我をした脛辺りから袴の内側の太ももにまで伸びて来ていた。撫でられる感覚は、ゾワッとするような悪寒が走る、決して気持ちの良いものではない。しかし、内腿を擦りだす手を抑えることはせず、それをも抑え込むように少し目に力を込めて、先ほどとは変わり、突き放すように時貞は語気を強めて話す。


「佐々木様、私にご興味がおありか?」


「無いとは言わぬ。この白き肌に見惚れぬ者がおると思うか。」


「見惚れないものなど、おらぬと思っております。」


「お主、生意気な口を利く」


「私は、美しいから許されるのです。」


そう返されると、これ以上何かすることも躊躇われ、佐々木の手が時貞の身体から離された。


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