〔ああぁ・・ん・・。あかん・・・せいさん、うち・・幸せや・・〕


〔ほんまに迎えにきてくれはる?うちせいさんの事待っててええん?約束や。〕


〔気いつけよしや。必ず、必ず便りを・・・〕


なんちゅう夢なんや、いくら昨日のかんろちゃんがかわいらしくて性的欲求が高まってるってゆってもな、自分が女でそない声出してる夢みるとは・・・。わかてるんや、自分の中にいる女(ひと)の想いでなんや、多分な。昨日、裏切られた気分になったんは、その女の想いがあふれでたんや。自分であって自分やない、でも、自分なんや。せいさんと呼んではった男の人の感触や、その人と愛しおうてる時の幸せな気分が、自分の中で実感として残ってる。僕はせいさんを探しに来たはずやない。でも、彼女はせいさんを愛してたんや。


布団に座り込んで、少し寂しい気分になりながら朝の長崎の空を見上げた。真っ青で雲一つない、今日も暑くなりそうや。時間をみれば6:30。のそのそと起き出して、布団を片づけた。今日はお盆の中日、先祖さんが帰って来てはるからあない夢を見続けてるんとちゃうんかな。そう考えてみても、中からそうではあらしません、と返ってくる気がする。はぁーっとおっきなため息をついた時に、携帯がメールの受信を伝えた。
こんな朝早よから誰や、っと思いつつ受信履歴を確認したら、実家のおかんからのメールや、寝起きにきっついな、なんやねん。


≪おはよう。どないしてる?お土産に買ってきて欲しい物があんねん。えらい値がはるもんやけどな、鼈甲のブローチが欲しいねん。あとで払うさかいたのむわ。=^_^=≫


顔文字まで使うてる・・。かんにんしてや。鼈甲やなんて、べっこう・・かんろちゃん。こっちはええ感じや。うん、なんや気分向上、今気が付いた、かんろちゃんメール入れてくれてたんや。昨日、別れ際にアドレス交換してたんに、さすがにえらい疲れてたからなぁ、あっという間に眠ってしもうて、受信してたん気が付かへんやった。ちょっとウキウキした気分でそのメールを開き中の文章を読む。ただ、お疲れ様でしたと言った内容のメールなんやけど、プライベートで女の子から貰えるのは嬉しいもんや。今日も朝から会う約束してんねんな。ドロッドロとした感のある夢のことを一度放り投げて、現実のかわいい女の子とのデートを楽しもう。そうと決まったら、さっさと朝のグルーミング終わらせなな。


「おはようございます。三光さん準備出来てますか?」


ロビーから少し大きい声でかんろちゃんの声が館内に響いた。おお!!もう時間やったんや、あかん、ゆっくりしすぎてた、かんろちゃん待たすわけにいかへん。慌てて、部屋から飛び出してかんろちゃんの待つロビーに出た。今日もかわいい、自然と顔がほころんでしまう、はたから見たら鼻の下伸びてるようにしか見えへんな、絶対。


「おはよう。昨日はメールくれてたんに返信ようせへんで悪かったなぁ。あっという間に寝てしもうたんや。かんにんな。」


「いえ、そうじゃないかと・・。無理させたんじゃなかとかって、母にも叱られました。今日は、昼過ぎまで大丈夫になりました。夕方からお墓に行くから、それに間に合わせて帰ればよくなりましたので。少し遠いところでも大丈夫です。」


「ん~でも、この辺でも、名所あるようやし、竜馬のほら、なんやったかなぁ」


「ああ、亀山社中ですか?いいですよ。」


「ほな、まずは、長崎の氏神さんのお諏訪さんにお参りにいこか。」


こっくり頷いて僕と一緒に歩き出した。今日は、袖なしのシンプルな白いボタンシャツと、太ももの半分までのショーとパンツという出で立ち、あかん、スケベ心が刺激されそうや。わりと胸もしっかりとあるしな、僕の身長が180cmほどあるさかい、上からちょっと見えるんや、いかんいかん、あの夢がそうさせるんや、あんな夢見たら健全な男子は欲情せえへんわけないってもんや。でもな、かんろちゃんめっちゃ奥手や、そんな話したらもう僕と話もしてくれへんようになりそうや。


「こっから、諏訪さんまでどのくらいで着くん?」


「うーん、15分くらいかなぁ、ああ、そうだ、階段どっから登ります?一番下からやったらすごく大変やけど。」


「せっかくや、いっちばん下から歩いてみよか。」


「泣かんでくださいね。」


ちょっと不敵な笑いで僕を見るかんろちゃん。今日は朝いちばんやし、昨日はしっかり休んださかい


「おう!!」


と、自信満々で答えたんやけどな、階段見て僕の考えが甘かったことに気が付いても後にひけへんかった、その階段の総数193段、もっともきっついのは、長坂と呼ばれる73段の急な階段。この階段を目にしたときには、もう、かんにんして~っと心の底から言いたくなった。でもな、この階段登る前にな、かんろちゃんが目キラキラしながら説明してくれたんが、僕には唯一の救いやった。


「この階段は長坂っていって、長崎くんちの時に無料の桟敷になっとです。今立ってるところでくんちの奉納踊りがあるんです。くんちは10月の7・8・9日の3日間行われていて、最初の日にここで朝早くからあるとです。今は、その練習が始まってるんですよ。」


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