春のぽかぽか陽気。今でも覚えている。こどもの頃の記憶。小学校の校長室。やさしい校長先生はたまたまどこかに行っている。職員室かな。ぼくひとり。いい陽気だった。暖かい春の陽ざし。あの頃は校長室に登校させてもらっていた。やさしい先生はいた。数少ない安らぎの記憶。

中学校を卒業して、彷徨う風のように夜の町を歩く。もうあの頃のようではないんだ。おれがこんなふうになるって先生たちも思っていなかったろうな。あの時代の言葉にできないような心の感覚。苦しかった。今でも思い出そうとすれば腹のところに何か生まれる。けど、もう感じてはいない。

いつの間にか年をとった。おれはもう満足したよ。幻想の中を生きたとしても、それがおれの人生だった。古風なニューウェーブなんて呼ばれたこともあったっけ。不思議で妙な人生だったが、楽しかったよ。あの頃のおれたちみたいなのが苦しんだから、今の若い人たちはやさしい顔をしてるんだと思う。時代を変えたんだ。十分さ。

空には晴れと曇りがあって、日々うつろっていくけど、変わらない太陽のリングがある。愛されている証。おれを求めてくれているんだ。あの子が指にたくさんしてる指輪、おれをつなぎとめるためのものさ。でも、おれももう先に進みたい。幻想にさよならしたいんだ。これまでのことはすべて幻想だった。もうそれでいいんだ。先に進みたい。リアルがいい。

 *

『変わらないもの』

風の町の懐かしい日だまりの月日
数少ない安らぎの記憶
風は吹き、時代は変わった
古い風が夢見る新しき君の時代

古い風は大人しくなり
日々のかげりがあっても
輝く青空の指輪が照らし出す恋の手紙