外国人監督が語る日本男子バレーの現実と可能性(フジテレビ) | 島根県庁バレー部(Pref Shimane)からのお知らせ

※ 以前紹介した記事です。アクセスが多いので再掲しました。



今年最大の国際大会、ワールドカップの開幕が迫ってきた。女子は8月22日、男子は9月8日に開幕を迎える。

 

全日本男子は、8月8日までイランで開催されたアジア選手権で決勝に進出。決勝では完全アウェイの中、イランを破り3大会ぶり8度目の優勝を果たし、ワールドカップに弾みをつけた。


 ただ、世界中から強豪が集まるワールドカップでは厳しい戦いが予想される。以前は、アフリカ代表など格下と言えるチームがあったが、今は白星を計算できるチームなどない。一方で、上位チームははるかに先を行く。


 日本の現在の状況は、世界からはどのように見られているのだろうか。ワールドカップを前に、世界と日本の両方を知るV・プレミアリーグ男子の外国人監督に話を聞いた。


 まずは、昨シーズンのV・プレミアリーグでJTサンダーズを初優勝に導いたモンテネグロ出身のヴェセリン・ヴコヴィッチ監督。セルビア・モンテネグロやエジプトなどの代表監督を務め、ヨーロッパのクラブチームでも長年指揮を執った。


 はじめに、「もしも外国人選手抜きのJTで世界の強豪と戦うとしたら、どのようなやり方で戦いますか?」「日本が世界と戦うためにやるべきことは?」と聞くと、「アイデアはありますが、それを言って、今取り組んでいる代表の関係者への批判と受け取られてはいけないので」と明言を避けた。


 ただ、「一つだけ言えるのは、今彼らがやっているやり方とは違う、ということです」とつけ加えた。


 詳細は明かさなかったが、会話の中で一つうかがえたのは、今年の全日本のメンバー構成に疑問を抱いているということだ。ヴコヴィッチ監督は、昨年のアジア大会の全日本のことを、「パーフェクトだった。ベテランと若手がバランスよく融合し、チームの雰囲気もよかった。格上のチームに対しても闘争心をむき出しにして、最後まで諦めず戦っていた」と絶賛していたからだ。


 来年のリオデジャネイロ五輪については、次のように見通しを語った。


 「日本の選手はリオ五輪の出場権を獲得できるだけのクオリティを備えている。仮に出場できなかったとしたら、それは選手の責任ではない。チームが出場できるかどうかの要素は、選手、現場スタッフ、協会がそれぞれ等しく33%ずつを占めています」


 つまり、出場できるかどうかの鍵は、選手以外の残りの66%にあるということのようだ。

 5年後の東京五輪で、日本がメダル争いをすることは可能だと思うかと尋ねると、「それは難しい」と答えた。


 「そうなって欲しいけれど、リアリティがない。なぜなら、そのためのプロジェクトは2年前には始まっていなくてはならないから。少なくとも7年はかけて長期計画を練らないと、ブラジル、ポーランド、ロシア、イタリア、セルビアといったチームと渡り合うのは難しい。オリンピックで8位に入賞するのと、セミファイナル以上を目指すのはまったく別物。5年は短すぎます」



 豊田合成トレフェルサを昨季プレミアリーグ3位に引き上げたアンデッシュ・クリスティアンソン監督にも同じ質問をした。スウェーデン出身のアンデッシュ監督は、スウェーデン代表や、イタリア、ベルギー、ギリシャのリーグで監督を務め、ベルギーのノリコ・マザイクでは欧州チャンピオンズリーグで二度準優勝している経験豊富な指揮官だ。


 日本が将来的に五輪でメダルを獲ることは可能だと思うかと聞くと、険しい表情で「それは非常に難しい」と首を横に振った。


 それでも、こう続けた。


 「完全に考え方を変えれば、可能性はあるかもしれない。日本にはユニークなシステムが必要だ。しかし今、日本は他のチームと同じシステムで戦っており、他チームをコピーしているにすぎない。例えば、おそらく日本のジャンプサーブは海外の強豪の70%ほどの威力だし、ブロックは低く、スパイクのパワーも十分ではない。海外勢がF1の車なのに、日本は普通の車でレースを走っているようなもの。だから同じことをやっていてはノーチャンスだ。


 唯一のチャンスは、他とは全く違う新しいスタイル、アイデアを考え出すことから生まれる。そしてそのスタイルに沿った選手を育て上げること。昔、日本は他チームと違ったコンセプトで戦ったから世界一になれたのです」


 その全く新しいアイデアとは何かが一番知りたいところだが、「もし私が責任あるポジションだったらあらゆる角度からそれを探すけれど、今は考えていない」と答えるにとどまった。 


「フィジカルを最大限に高められているか」

 一方、モチベーションの違いについて語ったのはサントリーサンバーズのジルソン・ベルナルド監督だ。監督経験はまだ浅いが、現役時代はVリーグでサントリーの5連覇に貢献した他、ブラジルやヨーロッパのリーグで長年活躍した。

 

「日本と海外のトップチームは、フィジカル的な差が非常に大きいが、それだけでなく、モチベーション的な違いもある。『どうしてバレーボールをやっているのか』という理由は、国によって違う。ご飯を食べていくために、生きていくために、もしくはステータスを求めたり、有名人になりたいという気持ちも大きなモチベーションになり得る。私の場合は現役時代、『歴史の中に名を残す』ということが重要でした。もちろん家族を養うために金銭的な報酬も不可欠ですし、おじいちゃんになった後どんな生活をしたいかということもありますが、『あの世に行った後、どういう名前を残すか』というところが一番大きなモチベーションだったのです。

 

 海外のチームによくあるのはやはり『生きるため』というモチベーションで、そういうチームは強い。それは日本とは少し違うかもしれない。だからといって日本が間違っているとは思いません。最近日本の歴史や文化について勉強しているのですが、日本の場合は武士道というものが国民性にもつながっていると思う。どちらかというと、自分が出世するためよりも、組織や守るべきもののために戦う、という気持ちがあるのではないか。そういう日本らしさをいかして戦えばいい結果につながるのではないでしょうか」

 


最後に、日本人だがノルウェーで8年間代表監督などを務め、世界のバレーに精通する堺ブレイザーズの印東玄弥監督にも話を聞いた。

 

「東京五輪で日本がメダルを獲ることは可能だと思いますか?」という問いに、印東監督は、「みんな心の底で『無理だろう』と思っているから無理なんです。やりようによっては、ありえることだと思います」と希望を示してくれた。ただしハードルは高い。


 「私はヨーロッパにいる間、ロシアやポーランドなどを近くで見てきましたが、彼らも同じようにすごい努力をしている。それに、4ヶ月半、日本のリーグでもまれるのと、ロシアリーグでもまれるのとでは全然違います。日本のリーグは、強い外国人選手がいるチームが勝ってしまうという現実がありますが、そのチームを倒すとか、その選手とのポジション争いに勝つことができなければ、世界なんて言えません」

 

 まず必要なこととして、印東監督はフィジカル強化の必要性を説く。


 「日本では、『世界には身長やパワーでは勝てないから速くしよう』というふうに、やるべきことが“速さ"に変換されがちです。もちろん、白人や黒人の選手に比べて、身長など劣る部分はあるかもしれませんが、相対的に弱いとか強いじゃなく、その選手が絶対的に秘めている能力を最大限引き出せているかどうか。パワーも高さも、トレーニングによってまだ強くなる余地があるのだから、その人が持っている限界まで高めることが不可欠です。もちろんトレーニングだけで勝てるわけではなく、技術、うまさも必要です。ブラジルなんて高さもパワーもある上に、うまいわけですから。でもそういうチームに対抗するための練習をするには、それに耐えられるだけの体力が必要。そこがスタートラインですが、そこに立てていないのではないかと感じます」


 「日本は高さとパワーでは勝てない」というフレーズをよく聞く。身長はともかく、パワーで勝てないと決めつけるのはどうなのだろう?とずっと疑問に思いながら、やはりかなわないのかと諦めかけてもいた。しかしやはり、その差を埋める余地はあるのだと信じたい。

 

 さて、現在の全日本は、アジア選手権の後、イタリアに渡った。そこで練習試合を重ねてポーランドに移り、フランス、イラン、ポーランドと共にフベルト・ワグネル記念大会に参戦する。

 

 日本を発つ前の合宿では、ブロックとディグ(スパイクレシーブ)に重点を置いた練習を重ねていた。ワールドリーグでは、相手の攻撃が日本の狙い通りに来ているのに拾えないという場面が多かったからだという。加えて、遠征では海外勢の高いブロックや速いサーブに慣れ、そして実戦の中でサーブ力も磨きたいと、南部正司監督は語っていた。


 国内にこもって合宿ばかりしていた2012年以前に比べれば、海外勢との実戦経験を増やす取り組みは大きな変化だ。また今年は、イランを世界の強豪の一角に急成長させた名将、ジュリオ・ベラスコのもとで2年間コーチを務めたアーマツ・マサジェディアドバイザーコーチを招き、ベラスコ仕込みの考え方や技術を日本の選手に伝えるなど、プレーとアイデアの選択肢を増やそうとしてきた。


 外国人監督たちの厳しい評価をはねのけて、全日本は世界の強豪に対抗することができるのか。9月8日に開幕するワールドカップに注目だ。



著者プロフィール

米虫 紀子(よねむし のりこ)

大阪府生まれ。大学卒業後、広告会社にコピーライターとして勤務したのち、フリーのスポーツライターに。バレーボール、野球を中心に活動中。『Number』(文藝春秋)、『月刊バレーボール』(日本文化出版)、『プロ野球ai』(日刊スポーツ出版社)などに執筆。著書に『ブラジルバレーを最強にした「人」と「システム」』(東邦出版)。



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