医療過誤で刑事責任を問われた医師が、先週(二十日)無罪判決を言い渡されました。福島県の病院で平成十六年、帝王切開手術を受けた女性が死亡し、産科医が業務上過失致死と医師法(異状死の届け出義務)違反の罪に問われていた事件です。
医療過誤による医師の逮捕は、医療界に衝撃を与えました。医師が逮捕された後、全国で多数の病院が出産の取り扱いを中止したり、医学生は産科のみならず、外科など命にかかわる手術を行う分野を避けるようになり、地域の産科医不足を加速させたとも言われています。そもそも医療行為は専門性が高く、「結果が予見出来たにもかかわらずそれを回避しなかったこと」を罪とする業務上過失致死罪を適用しようとした警察は拙速だったのではないでしょうか。安易に刑事責任を問えば、医師のなり手がなくなりますます医療崩壊が進んでしまいます。判決は被告の行為を「臨床上の標準的な医療措置」と認め、過失はなかったと判断しています。
この事件を契機として、政府・与党で「医療安全調査委員会」の設置が検討されています。政府案では委員会のメンバーは、医療の専門家のほか、法律家や、遺族の代表などからなります。医療死亡事故が起きた場合、医療機関から地方委員会への届け出を制度化し、調査チームが遺体の解剖や、関係者の意見聴取などを行い、その結果をまとめて医療機関と遺族に通知し、また、個人情報を除いた上で一般にも公表され、事故の再発防止に役立てるとしています。また、故意や重大な過失があった場合など悪質な事例は警察に通報することもあるとされています。この政府案については、「委員会」への届け出が刑事責任に直結する可能性が医師の側から問題として指摘されていますが、民主党は、医師法二十一条の削除や医療機関と患者の対話を促進する医療メディエーターを設置する対案を用意しています。患者の権利を守りながら、医療崩壊を防ぐベストの案が、与野党の協力でできることを望みます。