TICADⅤのソマリア関連イベントにパネラーとして出席しました。前日、ソマリアのムハマド大統領と会見(写真)し、ソマリア政府の要望を聞いた上、発言をさせ頂きました。私の発言の概要は以下のとおりです。

 ソマリア沖からインド洋にかけての海域は、アデン湾とスエズ運河を経てアジアとヨーロッパを結ぶ重要な航路であ る。例えばソマリア沖では年間およそ2万隻の船舶が航行しており、そのうち約1割、およそ2000隻が日本関係の船舶。また、全世界のコンテナ貨物輸送の 約20%がソマリア沖を航行している。このように経済活動・安全保障上最も重要な海域のひとつがソマリア。この海域が海賊に脅かされていることは我が国に とって看過できないことから、日本は国際社会と協力して海賊問題に対処してきた。

 2009年に海賊対処法を成立させ、常時、海上自衛隊の2隻の護衛艦と哨戒機P3-C2機を常時派遣している。また、2011年6月にはジブチにこの2 機を運行するための「活動拠点」(基地)を開設した。国籍をとわず2947隻(このうち日本に関係した船舶569隻)の護衛実績がある(2009・ 7~2013.4)。加えて現在「海賊多発海域における日本船舶の警備に関する特別措置法案」が成立の見込みであるが、この法案により、日本船籍の船舶に 民間武装ガードを乗船できるようになる。

 ソマリア沖・アデン湾の海賊は、2011年237件人質470名であったが、2012年75件250名、2013年第一4半期5件0名と激減した。海賊 が劇的に減っている原因は、国際社会の海賊対処力もあるが、それだけでは説明できない。20年以上無政府状態であったソマリアで、昨年夏、新憲法に基づく 新政権ができたことが大きな原因である。モハメド新大統領ががプントランド内で海賊を捕らえているからだ。
 海賊の撲滅にはモハメド政権を安定させ、根本的な問題に取り組ませることが必要である。すなわち、治安の回復・貧困対策だ。ソマリア自身に、国内治安を維持する能力・海上保安能力の保持させ、さらに若者の雇用の創出に取り組ませるのだ。

 我が国は世界に冠たる海上保安庁を保持しており、ソマリアのコーストガードの再建には力を貸せる。かつてソマリアにはコーストガードがあったが内戦で消 滅。かつての人材を活用すればコーストガードの再建は可能だ。我が国も周辺国支援ではなくソマリア自身に支援を行う時期にきている。

 同時に雇用を作り出し、海賊ビジネスから転職をさせることも必要。治安の回復が課題だが、例えばソマリア沖は、マグロの世界有数の漁場。マグロの水産基 地を整備し、世界最大のマグロ消費国の日本に輸出できないか。ソマリア沖に天然ガス資源もあると推定される。さらには、バナナなどフルーツの輸出も可能。 かつてはドールが入って輸出していた。経済支援で雇用の創出に取り組むべき。

 いまのところ世界のソマリアへの支援は少額。我が国も、2007年から2012年度に治安向上のためと人道支援に約3億ドルの支援をしたのみ。これから は経済援助が必要。これまで各国は海賊対処のための海軍等活動費用に毎年、およそ60億ドルもの予算をつぎ込んできた。これをいつまでも続けることはでき ない。海賊が減少している今こそ予算の一部をコーストガードの再建、政府軍の維持など治安の回復に回してはどうか。同時に雇用の創出やインフラの整備など の経済支援もスタートさせるべきである。」