平田玉蘊 「松林山水図」 菅茶山 賛 紙本水墨 横29㎝×縦137㎝
この作品も前回(110)の作品と同様、菅茶山の漢詩が先にあり、その漢詩に沿うように平田玉蘊が絵を描いた作品と考えられる。
山中に松林があり、その中を川が流れている。松林は濃淡をつけ、幽玄な世界を水墨画で表現している。
菅茶山の漢詩は、次のように記されている。
菅茶山詩集 「黄葉夕陽村舎詩集」の221頁に収録されている。
夜深乗酔入林行
衣袂飄飄歩屧軽
道轉忽知人境遠
天風吹落萬松聲
詩意は、深夜酔いにまかせ林に行き、
初めは衣も飄々とし足取りも軽かったが、
急に道を間違い、人里から離れてしまった。
そこでは、天から風が吹きおろし、多くの松の樹が
風に揺らされる聲だけが聞こえていた。
そんな漢詩の内容であろうか。この詩を味わうと玉蘊の絵が茶山の詩の世界を的確に表現していることが分かる。
絵の画面は暗く描かれて、深夜の山中であり、松の樹ばかりが描かれている。
遠くの山は刷毛でさっと引いて、深い山中であることを示す。
菅茶山の漢詩があることによって、この絵を見る人は玉蘊の絵の世界と茶山の世界を二つ重ね合わせて鑑賞できる楽しみがある。
玉蘊にとっても、始めに茶山の漢詩を描いていただくことで、それに合わせて絵を描く楽しみと、短い時間で茶山の賛入りの絵が多作できるメリットがあったのであろう。