【506号】2016/9/21

 

明日で謹慎が開ける、という日の夕方。布川先生から、俺に電話があった。たまたまその時は俺がスマホを家に忘れた状態でスーパー銭湯に親父と行っていたので、母さんがその内容を伝えてくれた。

 

「高井先生からの伝言。楽器を返すから、朝の8時に音楽教員室に来るように」。

 

おお~。良かった。

 

でも、待てよ。何か、嫌な予感がするぞ。また、その場で何かを弾け、ということかな。ううむ、10日くらいのブランクだから、音程が定まっている自信がない。ヴァイオリンは、ピアノと違って「叩けば、その音が出る」わけではないし、ギターのようにフレットがあって、音程が決まっているわけでもない。指と指の間隔は、本人が毎日練習して、微妙な指遣いを身に付けていかねばならない。高校1年の春にヴァイオリンを弾いて以来、10日間も楽器から遠ざかったことはなかった。修学旅行でも、4泊5日で京都だったけど、西京極のアーケード内に楽器やさんを見つけ、森山と一緒に、そのお店にあった楽器を試奏させてもらったほどだ。友達からは、

「京都に来てまで、ヴァイオリン弾いてるぜ、浩太は」

とバカにされたけど(笑)。

 

仕方ないから、俺は玄関にあったプラスチック製の「靴ベラ」を顎に挟んで、腕や指の位置をなんとか確認しようと、やっきになっていた。

それを見て、母さんも姉貴も呆れていた。

 

言わば、言え。

俺には、あのコンマスの席がある。まだ高井の指揮は見たことがないけど、樋口や森山が逐一、

「今日の練習では、~」

と報告をしてくれたので、高井が本気を見せてオケを指導してくれていることは把握していた。

 

森山の話では、最初はコンミス(=コンサート・ミストレス)をイヤイヤ務めていた中川さんが、日を追うごとに自信を増していき、弾きっぷりも堂々たるものになっているという。

 

嬉しいけど、ちょっと微妙。

俺は本当に、コンマスに戻れるのだろうか。

 

それもこれも、明日の8時だ。

今日は、早く、寝よう。

 

(つづく)