【501号】2016/9/14
もう5時限目は始まっていたけど、とにかく俺は高井に会いに音楽室へと急いだ。途中、樋口からLINEが。
「浩太、お前の楽器が見当たらねえ。どこにしまった?いつもの棚にないけど」
ええ〜!どうして?命より大事な俺の楽器。そのために毎朝、2年間新聞配達をしたんだ。
ん?まさか?
・・・そうだ。きっと、高井だ。
俺のヴァイオリン・ケースにはSANOというでっかいキーホルダーを付けている。
あいつがきっと、預かっているんだ。
あの野郎。
俺は走りながら、まだ高井の意図を図りかねていた。
音楽室について、教員の控え室のドアを叩く。
「高井先生、佐野です」
「入りなさい」
重い防音のドアを開けると、高井の近くに間違いない、俺のヴァイオリン・ケースがそこにあった。
(やっぱり)
いや、でも、2週間と聞いていたのを1週間にしてくれたのが高井だとしたら、まずは感謝しなければならない。
「佐野くん。処分を聞いたのか」
「はい・・・・1週間の自宅謹慎ですみました。布宮先生からは、高井先生が色々とお力添えを頂いたと聞きました。本当にありがとうございます」
俺はゆっくりと、頭を下げた。
「ま、1週間とはいえ、コンサートマスターがオーケストラから不在となる。そのことを、君はどう考えますか」
「・・・・本当に申し訳ないと思います。・・・でも、たった1週間ですから、すぐに戻って、皆に追いつきます」
「それは、どうかな。」
高井の、冷たい目。
「昨日、『フィンランディア』を振らせてもらった。昨日だけで、だいぶ、音が変わったよ」
「・・・・はい、樋口や森山から、そのように聞いています」
「・・・・これは、君の楽器だよね」
高井が、俺のケースを指差す。
「そうです」
(続く)