尾川中央は伝統のある学校で、もともとは明治中期に女学校として誕生したらしい。当時としては、女子教育の『はしり』として、レベルは県内屈指だったという。
しかし近年、男女共学制を取り入れた20年ほど前からは徐々にレベルが下がっていき、市内の「尾川東」「尾川南(男子校)」「尾川西(女子高)」「尾川北」の、いわゆる『東西南北』の後塵を拝している。
地元国立大学への現役合格者数も、最近は10名を越えることはない。私立合格も、いわゆる「G-MARCH」は稀だし、日東駒専あたりが精一杯なのだ。俺がK大付属にこだわったのも、そのあたりに理由があるのだが。まあ、それに落ちた俺だから、多くは語るまい。
その4月22日。たしか、金曜日だったと思う。
その日は珍しく、初めてではあったのだが、図書館に行ってみようと思った。
尾川中央の校舎は増改築を繰り返しており、図書館は、新装なった「管理棟」の1階にある。昇降口があり、正面に図書館、その上に音楽室と書道室がある。より静寂を求める「図書室」と「書道室」に隣接して「音楽室」があるって、ずいぶんおかしな設計をしたと改めて思う。
俺が昇降口、つまり図書館へ向かう途中、2人の女子が俺を追い抜いた。その時、
「5時開演だから急がないと」
という言葉が聞こえた。開演・・・演奏?ああ、吹奏楽部ね。俺はたまたま、小学校の高学年のとき、2年だけトランペットを練習したことがある。なんでも、 腹式呼吸が、持病だった小児喘息に良いということで、母さんが強く俺に勧めてくれたのだった。当時は俺も素直だったから、2年間は頑張って練習に励んだ。 特別に音楽が好き、ということではなく、純粋に身体を強くしたい、その一心でトランペットを吹いた。その結果、心肺機能は確実に高まり、小児科の主治医か らOKをもらい、中学からサッカーを始めたのだ。当然だが、トランペットは止めてしまった。
(つづく)