この名前もわからない謎の食べ物の形状、とくに先っちょの突起の部分が、街中で見るたびに気になり、あの突起の部分には何が入っているのだろうと考える数日間を送っていた。
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味の濃いイタリアの食べ物のことだから、チョコかクリームか、ヌテッラか。惣菜パンの可能性もある。
そして今朝、ぼくは思い切って食べることにした。
最初は突起の部分から食べようと思ったのだけれど、いつもの癖で、周りから食べることにした(ぼくはご飯を食べる時、メインは最後に残し、野菜や汁などから食べ、最後にメインと白米を食べる。どうでもいいことだけれど)。
突起は含まないように端っこから一口食べると、思いのほか薄味のパンで、中に何か入っているわけでもない。
やはりか、やはり突起の部分に濃い味のなにかしらが入っているんだ、そう確信した。
しかしここで迷いが出てきた。
もし突起の部分に濃い味のなにかしらが入っているのなら、一緒に食べるべきではなかろうか。
その方がこの名前もわからないパンの実力が発揮されるのではないか。
でも結局、ぼくはそのほかの部分を食べることにした。
これはぼくにとって、はじめてこの名前もわからない突起のついたパンを食べる瞬間であり、記念すべき瞬間なのだ。
もし2回め、3回めならばいきなり突起の部分を食べることも許されようが、今回は最初に思ったとおり、最後に残すことにした。
一口一口、やわらかな薄味のパンをよく噛んで味わった。
そしてついにぼくは憧れの突起の部分に到達した。
目を閉じて小さな丸になったその部分を口にふくんだその瞬間、ぼくはこの名前もわからない突起のついたパンを理解した。

これはただの味の薄いパンだ

これは、ただの、味の薄い、突起のついた、やわらかなパンなのだ。

そのパンは淡い味を残して、覚めたばかりの夢のようにだんだんと消えていった