北アフリカ政治・軍事情勢レポート(概観)

北アフリカでは近年、**政治的停滞と軍事的安定志向が同時進行する「低強度・長期型の不安定化」**が進んでいる。特にアルジェリアを中心に、各国は体制維持を優先しつつ、周辺紛争・大国間競争・サヘル不安定化の波を抑え込もうとしている。



① アルジェリア:軍主導体制の持続と地域安定装置

アルジェリアは北アフリカ最大級の軍事力とエネルギー資源を背景に、**「体制安定の錨」**として機能している。ブーテフリカ政権崩壊後も、文民政権の外形を保ちつつ、実質的には軍と治安機関が政治秩序を管理している。
• 軍は政治介入を表に出さず、選挙・政党・司法を通じた管理型安定を選好
• 対外的には非同盟・主権重視路線を維持し、米欧・ロシア・中国のいずれとも距離を保つ
• リビア、サヘル情勢の「波及防止」を最優先課題と位置づけ

特に国境管理能力は域内随一であり、軍事クーデターが頻発するサヘル諸国(マリ、ニジェール等)に対し、軍事介入を避けつつ緩衝地帯として振る舞う姿勢が際立つ。



② モロッコとの対立:固定化する戦略的緊張

モロッコとの関係は、西サハラ問題を軸に長期的緊張が続く。
両国は直接衝突を回避しつつも、
• 国境閉鎖の継続
• 軍備近代化競争(防空・無人機・情報戦)
• 米国・イスラエル(モロッコ)とロシア(アルジェリア)という外部勢力の影

という構図が定着している。これは「冷戦型の管理された対立」であり、短期的な戦争リスクは低いが、地域統合(マグレブ機構)が機能不全に陥る主因となっている。



③ チュニジア:民主化後退と治安国家化

チュニジアでは、民主化の象徴だった議会主義が大きく後退し、大統領権限の集中が進んでいる。
経済危機・IMF交渉停滞・失業率上昇を背景に、政権は
• 反対派の司法的排除
• 治安機関への依存強化
• 移民・難民管理での欧州との取引

を進め、**「選挙はあるが競争性の低い体制」**へ移行しつつある。アルジェリアはチュニジアを戦略的緩衝国とみなし、経済・治安両面で静かな支援を継続している。



④ リビア:停戦下の分断と代理戦争の残滓

リビアでは大規模戦闘は沈静化しているが、国家統合は進まず、東西分断が固定化している。
トルコ、ロシア、湾岸諸国など外部勢力の影響は依然として強く、選挙延期が常態化する中で、武装勢力が実質的権力を保持している。

アルジェリアは軍事介入を否定し、政治対話支持を貫くが、国境越えの武器・人流は依然リスク要因である。



⑤ 地域全体の構造的特徴

北アフリカ全体を俯瞰すると、以下の特徴が浮かび上がる。
1. 軍・治安機関が最終的安定装置
2. 民主化よりも「秩序維持」が優先
3. サヘル不安定化の北上を恐れる共通認識
4. 大国間競争(米・中・露・欧)の受け皿化

この結果、急激な体制転換は抑制される一方、経済停滞と若年層不満が中長期リスクとして蓄積している。



総括:爆発は起きにくいが、解決も遠い地域

北アフリカは現在、
「戦争は起きにくいが、前進もしない」安定停滞局面にある。
アルジェリアの軍主導安定は短期的には有効だが、経済多角化と政治包摂が進まなければ、地域全体が静かな緊張を抱え続ける可能性が高い。