[summary]

 

①ISに対抗する市民ジャーナリストたちのドキュメンタリー

 

②「理解」し「意見を持つ」ことの難しさ

 

③平和な世界で暮らす私達がするべきこと

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

4/22(日)。今日、『ラッカは静かに虐殺されている』という映画を見に行ってきました。

 

 

この映画自体はAmazon primevideoで既に公開されているのですが(是非見てください!)、公開後に講演会があるとのことだったので、わざわざ渋谷まで見に行きました。

 

 

この講演会で対談していたのが、ジャーナリストの安田菜津紀さんと、フリーライターの望月優大さんです。

 

 

『ラッカは静かに虐殺されている』は、言わずと知れたイスラム過激派武装組織「IS(イスラム国)」の支配に対抗する市民によって結成された市民ジャーナリズム団体「RBSS(Raqqa is Being Slaughtered Silently、ラッカは静かに虐殺されている)」の活動を追ったドキュメンタリー映画です。

 

 

ラッカはシリアの都市で、ISが「首都」だと宣言した街です。IS支配下のラッカでは公開処刑、拷問、子どもたちへの洗脳教育などの恐怖政治が敷かれ、RBSSはスマホで隠し撮りした画像や映像を配信することでIS支配の実情を世界に訴える活動をしています。

 

 

安田さんによると、ラッカという街はシリアの中ではかなり田舎の方で、インフラも経済もシリアの他の街と比べると整備が非常に遅れているそうです。IS放逐後の現在はクルド人勢力が支配しているのですが、ラッカには昔から、特に北部でクルド人が集まって暮らしていたようで、文化的にも多様で異文化に寛容な気風のある街だとのことです。

 

 

さて、安田さんと望月さんの対談の内容を一言でまとめるとするなら、それは「理解することの難しさと、私達の責任」です。

 

 

ISは斬首などの処刑、「人間の盾」といった非人道的な軍事戦略など、その際立った残虐性が特徴で、中東情勢だけでなく、テロや外国人戦闘員のリクルートを通じて全世界にまでその脅威を知らしめています。当然、これは容認されてよいものではなく、世界から除かれるべき「悪」であるはずです。

 

 

しかし、「IS=悪」で切り捨てて終わりでは何も解決しません。ISはなぜ台頭したのか、そこにどんな構造的問題があるのかに目を向けなければ、ISが駆逐されてもまた次のISが生まれてしまうからです。さらに、ISというイスラム教に関係する極めて特殊な一側面だけがこれだけフィーチャーされている現状を無批判に受け入れると、イスラム教全体に対する差別意識を助長しかねないのです。

 

 

従って、ISを本当に理解するためには当然、それが生み出された構造を分析し、自分なりの意見を持つことが求められてくるのですが、ここに大きな問題があります。

 

 

このブログが目指すところでもあるのですが、ISやそれにまつわる中東情勢を紐解くには今誰と誰が争っているのかという、情勢全体を俯瞰する視点が不可欠です。そして、国際情勢のどんな問題にも言えることですが、ことシリア情勢に関してはこれを理解するのが本当に難しい。

 

 

望月さん曰く、情勢をマジメに捉えようとすればするほど、善悪がわからなくなるのです。

例えばISにしても、シリア、イラクの両国におけるイスラム教スンニ派市民の受難が背景にあります。政権に弾圧された市民が現状の打開に向けて期待を寄せたのが、同じスンニ派のISだったわけです。(それは最悪の選択だったわけですが。このことはまたいずれ解説しようと思います。)

 

 

誰のせいでこうなったのか、誰がどういう理由で苦しんでいるのかが分かりにくい上に、交戦勢力が複雑に絡みあっているのが、現在のシリア情勢の現状です。

知れば知るほど状況の複雑さに頭が混乱し、理解することを諦めてしまい、結果無関心となってしまいます。

また、そのような状況の中で自分なりの意見を持つことには相当の苦痛が伴うのです。

 

 

では、シリアよりは相対的に平和な日本に住む私達は、どうやってシリアをはじめとする世界中の抑圧されている人々のことを理解すればよいのでしょうか。

 

 

新聞やニュースに耳を傾けて常に情報を集めたり、原因となっていることについて勉強するのは一つの手でしょう。しかし、日本のメディアで流れてくる海外のニュースだけでは、現地で実際に苦しい立場に追いやられている人々が感じていることを知るのはなかなか困難です。

 

 

こうした時に、近年その価値が認められてきているのが、SNS等のソーシャルメディアの役割です。

今回の映画の主人公であるRBSSのメンバーは、集めた情報をSNSで世界に配信していました。

SNSを使用することで、いまや普通の一個人が撮影した動画や画像が、一瞬で全世界を駆け巡るといったことが茶飯事になっています。これを悪用したのがISですが、ラッカでISに弾圧され続けてきたRBSSの市民ジャーナリストたちのように、自分達が受けている苦しみを世界に拡散しようと努力している人々もたくさんいます。

 

 

こうして命懸けでメッセージを発信している人々に対して耳を傾けることは、平和に生きている私達の責任だと、望月さんは言います。

 

 

最後に、安田さんがお話して下さった、RBSSとある日本人ジャーナリストの繋がりについてご紹介します。

 

 

その日本人ジャーナリストとは、2015年2月1日にISによって殺害された後藤健二さんです。

 

 

安田さんはRBSSのメンバーと会ったことがあるのですが、その時にメンバーの一人、ハッサンが話してくれたそうです。(ハッサンは映画にも登場します)

後藤健二さんは、取材でシリアを訪れた際にRBSSのメンバーと出会ったそうです。RBSSのメンバーはもともとは普通の一般市民。まだ後藤さんと出会った当時は、技術的な面での経験値が足りていなかったようです。そんな彼らに、後藤さんはジャーナリズムのノウハウを伝えたそうです。

 

 

安田さんは、このように今苦しい立場に置かれている人々と、後藤さんのように外からやってきた人間が、お互いにより良い情報発信のために支え合うことができると説明しました。

 

 

安田さんは、また再びシリアへと発つそうです。安田さんの勇気に敬意を表し、無事に帰ってきてくださることを祈りましょう。

 

 

 

※追記

 

望月優大さんは、日本に来て現在日本で暮らしている外国人の方を紹介する「ニッポン複雑紀行」という、難民支援協会のホームページ上で連載されているウェブマガジンで編集長を務めていらっしゃいます。日本に住む外国人を取り巻く状況は、国内でありながら全然知らないことばかりで、読んでとても驚きました。是非こちらもチェックしてみてください!

↓↓↓

https://www.refugee.or.jp/fukuzatsu/