「脳卒中後、六ヵ月以内にもとに戻らなかったら、永遠に回復しないだろう。」
脳科学者のジル氏は耳にたこができるほど、医師たちがこう口にするのを聞いてきました。そしてそれは自分自身の経験から、真実ではないと言います。

読みました。ジル・ボルト・テイラー氏の「奇跡の脳」。脳卒中で倒れてから、8年かかって完全に回復した闘病記録ですが、仏教哲学のようでもあり、ヨーガの本でもあります。そして私にとって、これまでに読んだ脳に関しての本の中で、いちばん解りやすいものでした。

人に伝えたいことがあれば、相手が理解するように語らなければいけない。ジル氏は万人に彼女の話を伝えたかったのだと思います。

脳卒中を起こした朝のことを克明に覚えていますが、起きたことすべてを憶えているのは、精神的に障害をかかえたけれども、意識は失わなかったためだといいます。ジル氏は自我の中枢と、自身と他者を区別する左脳の意識を失ったけれど、右脳の意識とからだをつくり上げている細胞の意識は保っていました。それによって"宇宙との一体感"、"ニルヴァーナ"などと呼ばれる悟りの境地を経験したのです。

再び赤ん坊に戻った彼女の回復を、母親を始め多くの人たちが支えますが、介護者の中には彼女のエネルギーを吸い取る人たちもいます。そして同じように、ものや状況も。テレビや電話はエネルギーを奪い、無気力で学習に興味を持たない状態にさせるようです。
ジル氏のように強く感じないだけで、私たちもエネルギーを無駄に消耗する環境に、無防備に身を置いていることが多いのだろうと思いました。

回復の過程はとても興味深くドラマチックなのですが、中でも感情がからだにどのような影響を与えるのかについて語られる部分は感慨深いです。ジル氏は言います。

喜びというものは、体の中の感覚だった。平和も。



summerBegins


今日は久しぶりにいいお天気。いよいよ梅雨明け、夏到来!



新しい感情が引き起こされ、それをからだで感じる興味深い体験は、こう語られています。

新しい感情がわたしを通って溢れ出し、わたしを開放する。その「ある感じ」を繋ぎ溜めてからだの中に長く残しておくか、あるいはすぐに追い出してしまうかを、実は自分で選ぶ力を持っている。
何かを決める時には自分の中でどう感じたかを大切にし、不快な感情がからだの中に押し寄せた時には、そういった神経ループにつなぎたくないと伝える。左脳を利用して脳に直接話しかけ、自分がしたいこととしたくないことを伝えられるようになった。

反応能力とは、感覚系を通って入ってくるあらゆる刺激に対し、どう反応するかを選ぶ能力で、感情を司る大脳辺緑系内にプログラムが存在しています。そのひとつが誘発されて、化学物質が体内に満ち渡り、血流からその物質の痕跡が消えるまで、全てが90秒以内に終わります。
例えば怒りが誘発されると、脳から放出された化学物質が体に満ちて生理学的な反応が引き起こされる。自動的な反応は90秒以内に終わり、もしそれ以降も怒りが続いているのなら、それはその神経回路が機能し続けるように、自分が選択したからなのです。

私にも覚えがあります。急に不機嫌になった友人がイライラを強い調子でぶつけてきた時、ヨーガを初めてから久しく感じなかった感覚を受け取りました。喉の奥からしこりのようなものが上がってきて、呼吸が速くなったのです。その時私は言い争いに発展したり、いやな気持に陥ってしまうのを避けたかったので、その塊が引いていくのを待ちました。するとしばらくして喉は緩み、呼吸もゆっくりに戻っていったのです。

こうしたからだの中でどんなふうに感情を「感じる」のかに注意深くなると、ジル氏の状態は完全な回復へと加速していきます。

そして左脳が回復するにつれ、自分の感情や環境を、外的要因(人や出来事)のせいにする方が自然に思われてくるのですが、ここでも気づきがあります。ジル氏は自分の脳以外には、誰もわたしに何かを感じさせる力など持っていないことを悟ったのです。外界のいかなるものも、わたしの心の安らぎを取り去ることはできない。それは自分次第で、自分の体験をどうとらえるかは、自分で決めるべきことなのだ。

出血後に心の目が開いた彼女は、脳にいろいろと干渉できることがわかってきました。右脳の個性のもっとも基本的な特色は"深い内なる安らぎと愛のこもった共感"で、一度ハッキリとそれを享受したジル氏は左脳の働きを取り戻す過程で考えます。

「回復したい記憶や能力と神経学的に結びついている、好き嫌いや、人格の傾向を全てそのまま、取り戻す必要があるのか?」

ジル氏は怒りや批判、不安や嫉妬などの神経回路に繋がないように脳に注意深く支持を出し、自分の心を自分で管理する仕方を学んでいきました。からだに溜め込んでおきたくない感情だとしたら、それによって消耗させられるのをやめて、自分自身を現在に引き戻す。過去の出来事を考えるのを止める。
左脳の機能と記憶を取り戻しながら、脳の状態を見張り、心の庭を育てていきました。

終盤は右脳マインドの内なる安らぎを体験するために、感覚器官、運動器官両方を使ってアクセスする方法が詳しく書かれています。その一歩はまさに「いま、ここに」いる、という気になること。呼吸への意識、感覚集中、食事瞑想など、まさにヨーガ的な気づきを促す方法です。

「奇跡の脳」を読んで、自分の中で今まで気になっていたたくさんの事柄が理解でき、その多くが繋がりました。
例えば、感覚運動神経に起こる記憶障害を定義したボディ・セラピストのトーマス・ハンナの言っていることは、ジル氏の語ることと同じです(以前のエントリ)。

"われわれが憎んだり怒ったりすれば必ず、生体も憎んだり怒ったりしている。われわれが愛し、望み、期待すれば必ず、〈生理的にも〉生き生きと、感動的に、愛し、望み、期待しているのだ。嫌悪・愛・希望は"心という空虚"に存在する"心理的状態"などではない。それらは、その生命体にくまなく存在する、肉体の状態なのである。"

ジル・ボルト・テイラーの闘病記録は、生命への賛歌。命を祝福し、その驚異的な存在への深い感謝に溢れた、スピリチュアルで実用的な科学書です。











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