アデル、ブルーは熱い色 | 野球と映画、ときどき…

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アデル、ブルーは熱い色(2013・仏・179分)

原作:ジュリー・マロ


監督:アブデラティフ・ケシシュ


主演:アデル・エグザルコプロス、レア・セドゥー

2013年第66回カンヌ映画祭パルムドール受賞作



映画ファンではない方でもカンヌ映画祭


というセレモニーはご存じの方も多いでしょう。


歴史もありますし権威もある有名な三大映画祭のひとつです。


アカデミー賞はアメリカで公開された映画を基本に


会員同士で選出する賞ですが


カンヌは毎年審査員も変わり審査員の好みで


受賞作の傾向も変わると言っていいと思います。


2013年はスティーブン・スピルバーグが審査委員長を務めました。


そして彼が認め全世界に発表した傑作が「アデル、ブルーは熱い色」です。




観終えて率直な感想は「さすがフランスだなぁ~」ということ


これはアメリカではできない、日本でも絶対ムリ


イタリアでは人間は描けても


ここまで恋愛を深く哲学的には描けないと思います。


スピルバーグやルーカスでもこういう映画は作れないと思います。




やや雑な言い方ですがこの映画は


レズビアンカップルの出会いから別れを描いています。


ただ本当はそういう乱暴なくくりではなくて


異性同志の恋愛(ストレート)でもあっても起こりうる


心の擦れ違いや自分が傷つきたくないからと取ってしまった行動が


逆に相手を傷つけてしまうという恋の駆け引きみたいなものも描いていています。




先述したカンヌ映画祭ではパルムドール(最高賞)は通常監督一人に与えられますが


なんと、この映画では主演女優の2人も同時受賞しています。


つまり、この映画は主演女優2人の熱演がなければ成り立たないものだったんです。




題材が題材だけに一つ間違えればキワモノ扱いの映画になっていたはずです。


しかし主演女優2人が、なんともいい!


街で見かけたエマに一目ぼれする女子高生アデル役の


アデル・アグザルコプロスは


半開きの口や不揃いな毛先が色っぽい肉感的な女優さん。


不安定な心情の際に宙をさまよう視線が怖いくらい


ミステリアスで魅力的な女優さんでした。


そして、一目ぼれされる青い髪の美術学生エマのレア・セドゥー


男前な女、ハンサムな女性とでも言いましょうか


アデルと初めて会話を交わすシーンで


真っ直ぐに目を見つめられて「人生に偶然はない」


なんてささやかれたら私も一発で恋に落ちるかもしれない。


女が惚れそうな女です(この表現で伝わるかしら?)


この2人を主演に置いたのがこの映画の一番の成功の理由でしょうね。




映画は公開前から衝撃的なラブシーンで巷では話題となっていました。


時間も長けりゃ3回もそういうシーンがある


おまけに2人の女優がそれこそ信じられないくらい体当たりで演じてて


もう、ショックとか驚きを超えて感動してしまいました。


多分興味本位でこの映画を見た人も


いい意味で裏切られたんではないでしょうか。




芸術、美、恋愛と自由なイメージのある国、フランス。


でも、やはり同性愛には批判的、差別的な状況も残っていて


アデルが両親や友人、同僚などにカミングアウトできなかったり


エマがビジネスの場でもアイデンティティーを理由に


作風や生き方を批判されたりする場面は


意外というか未だ海外でも生きにくい人たちが


大勢いるのだということを改めて知りました。




冒頭で書いたこととと矛盾しますが


私はこの映画をレズビアンカップルを描いたものとは思いませんでした。


アデルがたまたま心ひかれて好きになったのが「女性の」エマだっただけで


性の垣根を越えてパッションを感じただけの事ではないかと。


同性同志にしか恋愛感情を持てないという性向もあるでしょうが


文学を愛するアデルは美や言葉や表情や眼差しや


そういう人がもつ魅力に体(情熱)ごと持っていかれる人なんじゃないかと。


周囲にカミングアウトをして好きな芸術の道で自由に生きるエマには


世間体を気にしたり嘘をついてまで自分を守りエマに執着するアデルは


いつしかその存在が負担にしか思えなくなったんでしょう。


相手を哀れとか不憫と思った時点でそれは恋愛とは違いますから。




この手の映画ってだいたい悲劇で終わるんです。


アデルの文学の授業で「悲劇は必然だ」ってセリフも出てきますけど


私もこの映画の落としどころというかラストシーンがどうなるのか


ありきたりな悲劇というか予測できそうなラストは嫌だなと思っていました。


でも、「あぁ、こうきたか・・・」と落胆というより「逃げたか」って感じです。


観客に判断をゆだねています。



もう2人の恋は終わったんだよ



私はそう捉えましたけど皆さんはどう思うでしょうか?



この映画、実は3時間近くあります。


観始めたら、時間はあっと言う間に過ぎて


尺の長さを感じませんでしたが


忙しい人には貴重な3時間を割いてまで観る価値があるかどうか。


そしてR18、とても家族一緒にとかカップルで見てねと言いにくいストーリー。


観終えた後、食事しながら感想を語り合いましょうって言うのも難しい。


究極のところ、コアな映画ファンがあとでひとり


フランス小説「クレーヴの奥方」や「危険な関係」を読み返したくなるような映画です。


あぁ、やっぱりフランスに行きたいな


観光で数日でもいいから


あの自由な空気、匂い


でもって一方では現実的な市民の冷たい視線も味わってみたい


そんな気分にもなりました。


サラリーマンも主婦も、平日の昼下がりに


自宅でゆっくりDVDで鑑賞がおすすめでしょうか?


その週末に美術館で絵画を観て公園のベンチに腰かけ


アデルとエマ気分で映画を思い返してください。


少しフランスかぶれしてますね?