ホメロス「イーリアス」冒頭

 

怒りを歌え、女神よ、ペレウスの子アキレウスの――アカイア勢に数知れぬ苦難をもたらし、あまた勇士らの猛き魂を冥府の王(アイデス)に投げ与え、その亡骸は群がる野犬野鳥の啖(くら)うにまかせたかの呪うべき怒りを。かくてゼウスの神慮は遂げられていったが、はじめアトレウスの子、民を統べる王アガメムノンと勇将アキレウスとが仲違いして袂を分かつ時より語り起こして、歌い給えよ。

 

松平千秋訳(岩波文庫)

 

怒(わじ)りゆ歌(うぅた)ええ、女神(うぃなぐがみ)や、ペリウスぬ子(くぁ)アキリウスぬーーアカイア軍(いくさ)ぬ数(かじ)知らん苦難(あわり)持(む)たらち、数多(あまた)ぬ勇士(しいさあ)達(たあ)ぬ猛(ちゅう)さる魂(たま)ゆ冥府(ぐそお)ぬ王(ぬうし)「アイディス」んかい投(な)ぎ取(とぅ)らち、其(う)ぬ死(し)にっ人(ちゅ)や群(まちゃあ)する野良犬(やまあいん)野鳥(とぅい)達(たあ)ぬ食(か)むる如(ぐとぅ)に為(し)ちゃる様(よお)な呪(まんな)ゆる怒(わじ)りゆ。斯(かん)ん有(あ)てぃジウスぬ神(かみ)ぬ思(うむ)いや遂(とぅ)ぎらりてぃ行(い)ちゃしが、初(はじ)みアトゥリウスぬ子(くぁ)、民(たみ)ゆ統(そお)じたる王(うぉお)アガメムヌンとぅ勇将(しいさあ)アキリウスとぅが仲違(なかたげ)え為(し)ち袂(たむとぅ)分(わ)かちゅる時(ばす)から語(かた)り起(うく)ち、歌(うた)い召(みそ)おり。

 

@名前だけは聞いたことがあるかもしれません。ギリシャ叙事詩です。くわしくはWikipediaをどうぞ。

 

※「怒る」は「怒(わじ)ゆん」です。「わじわじい」は今の若者でもふつうに使うはずです。軍(いくさ)はおもろさうしにも見える言葉で軍隊のことです。数多(あまた)は日本語では古語になっていますが沖縄語では現役です。勇士は「しいさあ」と言います。獅子(しいさあ)と同語源です。冥府は死んだ後の世界です。つまり沖縄語では「後生(ぐそお)」と言います。「死(し)にっ人(ちゅ)」は文字通り死んだ人です。「群がる」ことを沖縄語では「群(まちゃあ)すん」と言います。「呪う」を沖縄語では「呪(まんな)ゆん」と言います。「統(そお)じゆん」はおもろさうしにも見える古い言葉です。

 

以下にギリシア語の原文を記載します。

 

Μῆνιν ἄειδε θεὰ Πηληιάδεω Ἀχιλῆος
οὐλομένην, ἣ μυρί' Ἀχαιοῖς ἄλγε' ἔθηκε,
πολλὰς δ' ἰφθίμους ψυχὰς Ἄιδι προίαψεν
ἡρώων, αὐτοὺς δὲ ἑλώρια τεῦχε κύνεσσιν
οἰωνοῖσί τε πᾶσι, Διὸς δ' ἐτελείετο βουλή,
ἐξ οὗ δὴ τὰ πρῶτα διαστήτην ἐρίσαντε
Ἀτρείδης τε ἄναξ ἀνδρῶν καὶ δῖος Ἀχιλλεύς.

 

@お気づきでしょうか。原文があまりにも短すぎることを。

ギリシア語は簡潔さの中に深い味わいがある言語なのです。

翻訳するとどうしても長くなってしまうのです。