沖縄小林流空手道協会・志道館藤田道場 福岡 -3ページ目

古武道セミナー棒術編 其の四 

前回に続き、棒術の基本である補助運動の第二を解説します。これから
あらゆる受け技が登場するので棒の位置や足の位置、手の向きや目線など、
注意して頂きたい。なお、右技しか表記していないが稽古においては必ず
左の技も行うことが必要です。


          <棍法(棒術)補助運動>

第二


1.下段払受・上段斜打(下段受・首打ち) 自然立構え-前屈立


  自然立の構えから、右足を一歩前に出し、前屈立1/2幅程度の小さい前屈
  立になり、右手を左下方向に、左手の握りは少し緩めながら上に棒を回転
  させ右膝を守るように下段払受。すかさず前足一歩出し、普通の前屈立と
  なり首打ち。
  なお、下段払受けをする場合は攻撃の棒を強くはじくのではなく、手前に
  こするように受け、強い攻撃を半減させる。
  また、下段払受から首打ちをする際には、そのまま前に出ると相手に入り
  込まれる恐れがあるため、左手の棒の先端を相手に向け牽制しながら打つ
  事が肝心である。
    


2.下段跳受・下段貫(下段受・足甲貫き) 四股立構え-後屈立・前屈立


  相手に対し左向きの四股立ちとなり、左腰に水平に棒を構える。
  左を向いたまま右に重心を移動しながら、右腕に棒を引きつけ、左にて
  手首を返しながら後屈立ちにて跳ね受け。
  すかさず、前屈立ちになりながら右手を引き上げ、左手首を立てた親指と
  人差し指の根元で棒を支え一気に貫く。
  貫くと同時に素早く棒を引くのであるが、貫く時のスピード以上に引きの
  スピードを上げると、より正確で威力ある貫きができるようだ。


  
3、砂掛け(攻撃 - 目) 前屈立-猫足立


  左足前の前屈立ちとなり、棒を右斜めに構える。その際の左手は中段に
  水平に保ち、右手は右腿後ろ辺りに手の甲は外側に向けて構える。
  左膝を固定し腰の高さを一定にしながら右足を前に移動し猫足立ちとなる。
  右足移動の際に、棒を右腿から離さないように添えたまま移動させ、右の
  つま先が猫足立ちの位置に着地すると同時に、右斜め下の棒の先端に

  地面の砂を乗せ右手首を内側に回しながら、一気に目つぶしの砂を掛ける。
  
  ここで重要なことは、この砂掛けの技は道場ではイメージでしかできず、
  砂場や海岸など実際に砂の上に立って行わないと絶対につかめない技で
  あることを前もって認識しなくてはならないだろう。
  沖縄での修行時代、糸満の玉城春雄先生(当時の全沖縄古武道連盟

  理事長で、私を沖縄に内弟子として呼んでくれた豪傑の武士である)

  に連れられ近くのビーチに行き、そこで砂掛けの稽古を何度も何度も

  しっかりと砂が真っ直ぐに飛ぶまでさせられたのである。
  その稽古方法とは、まず背丈ほどの岩を探し、自分と同じくらいの高さの
  目の位置にチョークで印をつける。
  そして、その目に向けて砂を掛けるというものであるが、最初は砂に勢い
  がないためパラッとしかかからず、目つぶしなど到底できる技にはならな
  かった。何度か稽古を続けるうちに放物線を描いていた砂が、勢いよく
  一直線に岩に当たり跳ね返ってくるほどのスピードになっていたのである。
  
  これもまた、風を切る音を出す棒の稽古と同様、玉城先生は砂掛けの

  要領やコツなど一切教えてくれず、ただ「岩に当たった砂が強く跳ね返る

  まで続けろ!」と言うだけで、あとは自分で色々考えてやるしかなかった。
  今から思うと、この「多くを語らない訓え」のおかげで人の技を真似るの
  ではない、自分で考え自分で工夫し、自分独自の技として身体に刻み

  込めたのではないかと確信している。



4.下段押え受(下段受け)  四股立および後屈立


  これは、敵が下段を突いてきた場合の受け技であるが、想定されることは、
  こちらの上段攻撃を敵にはたかれすぐさまの下段突きのように、間合いが
  近く反射的に出す技と考えられる。咄嗟の技のため、受けるというより瞬
  間的に腰を落とし敵の棒を叩き落とすイメージで下段押さえ受けをする。
  津堅の棍にて登場する技であり、叩き落とす時は、真っ直ぐに打ち下ろさ
  ず棒の先端が緩い弧を描くように打ちおろす。
  なお、後屈立ちの技は佐久川の棍で、、前屈立ちの顔を後方に向け後ろ脚
  を払い受けする場面の下段押さえ受けである。

  後方を向いているため解説では後屈立ちとなる。



5.返し打・返し突(顎・喉) 前屈立


  右に構えた棒の左の握りを下から返し打ち(沖縄ではシッティと呼ぶ)を
  し、そのまま喉突き。敵の構えた棒を狙い下から跳ねあげるシッティや
  打ちこんできた棒を下から跳ねあげるシッティがある。
  この技は、沖縄古武道独特の技であり、特に刀との闘いにおいて絶大な
  効果を発揮する技である。


 以上

古武道セミナー棒術編 其の3 <補助運動の効果的稽古方法>

古武道を習う場合に、まず何から始めたら良いでしょうか。
短い武器から徐々に長い武器へと進むやり方を勧める指導者もいますが、
私は古武道の全ての動きの原点は「棒」にあるのではないかと思っています。
棒を充分に使いこなしてこそ釵やトンクア―の技が生きてくるのです。
それほど棒の動きには重要な要素が含まれており、
棒による打ち・突き・貫き・受け・掛けなどの基本動作が
しっかりとできないうちは型を覚えるべきではないと言えるかもしれません。
実際、私が沖縄で修行したとき、はじめの3カ月ほどは、全く型を教えてはくれませんでした。
棒の振りで風を切る音が充分に出せるようになった頃、ようやく型を
教えてくれたことを今でもはっきりと覚えています。
それでは古武道の基本である、棒の補助運動からはじめてみましょう。



          <棍法(棒術)補助運動>


第一


1.上段打(攻撃 - 頭)  前屈立ち


  前屈立ちの横幅を狭くして立つ。前手巻き込み肩に乗せ、水平に
  した棒を真っ直ぐに打ちおろす。
  頭の位置で止めずに中段まで一気に打ちおろす。
  決めは前手の絞りと、後手の締め、前屈の前ひざの3点に力を集中させること。
  なお、総ての打ち・突きはこの3点に力を集中させることが重要である。


2.上段斜め打(攻撃 - 首) 前屈立ち
  
  前手の棒を腕に当て、斜めに構えた棒を肩にて押し出すように首打ち。
  当たった際の棒の跳ね返りを防ぐため、決めの前手は絞りこむ。3点集中。


3、中段横打(攻撃 - 胴) 前屈立ち


  右手の棒を腕に当て、水平に構えた棒を前に押し出すようにして胴を打つ。
  棒が波うつと威力が半減するため、前手で力を保ちながら水平に打つ。


4.下段斜め打(攻撃 - 足首) 前屈立ち


  2と同様に斜めに構えた棒を下段に打ち込むが、そのままの握りでは
  足首に届かないため、後手の握りを前にスライドさせながら
  握り幅を狭くすると足首が狙える。


5.中段掛け受・突(攻撃 - 喉・首) 猫足立ち・前屈立ち


  猫足になり巻き込んだ前手を中段に構え(棒の先端は相手の目の位置)
  棒を内側に絞りながら喉に突き。
  すかさず、棒を巻き込みながら素早く猫足立ち掛け受け。


  以上


古武道セミナー 棒術編  <其の弐>

前回、棒術における威力ある突きや打ちは、「スピードと瞬間の締め

から生まれる」ことを説明しました。


今から30数年前、私が空手・古武道の修行で沖縄に渡った当時、

沢山の流派(剛柔流・上地流・沖縄拳法・松林流・少林流・小林流等)

先生方の言葉のなかに共通する言葉がありました。

それは、「突きは足で突け」という言葉です。                    
                         
当初、その言葉の意味をさほど気にせず稽古に励んでいた私は、

一年二年と続けていくうちに強い突きや鋭い受けは、しっかりとした

立ち方や足の締め、さらには膝の柔軟性などが求められることに

気付ていきました。


筋トレや巻きワラを使った拳の強化も必要ですが、下半身の力の

とり方がしっかりとできていないと、鍛えた上半身の力を充分に

活かしきれないことが、少しずつ身体で分かってきたのでした。

「足で突け!」とは、沖縄空手を志す者にとって、とても重要な

キーワードだったのです。


少し前置きが長くなりましたが、古武道の場合も同様、棒術の突きや

打ち・受けにおいても足の使い方ひとつで強くも弱くもなり、特に、

上半身と下半身のバランスが大切な要素のひとつとなります。


例えば、前屈立で突きを行う場合、前後の足幅が短いと棒への力が

入る前に上半身が前のめりになり、強い突きができなくなり、逆に、

前後幅が長すぎると、力を入れようにも足が広すぎるため踏ん張りが

利かず、棒の力を支えることができなくなるのです。


また、前屈立で打つ場合も、左右の足幅(前から見た両足の横幅)

が広いと、身体が開いてしまい棒に充分な力を与えることができず、

最大の力が入る手前で打つことになってしまいます。


従って、棒術において使い手の最大の力を発揮させるためには、

前屈立の左右の足幅を狭く保ち、腰をしっかりと据え、さらには膝の

柔軟な前後にかける力が必要になってくるのです。


重要なポイントではないかと思われます。


さらに言うと、棒の先端にかかる力を支える引き手と、目標物を

捉える前手の握りとが、一直線になるように突き打ちを行えば、

頂点に達した最大の力を発揮することが可能になるのです。


以上、威力ある棒の突き打ちについて2回に渡り説明しましたが、

古武道の場合、棒術だけではなく、サイ・トンクアー・ヌンチャク・

エーク・ヌンティーなど、それぞれ形状や長さ重さが異なる武器に

応じた立ち方があり、さらには敵と対する距離、間合い、使い方

なども異なってきます。


それぞれの武器の特長を十分に把握し、それぞれの武器に応じた

足幅や立ち方を施し、使いこなしてこそ、古武道の本当の価値を

見出すことができるのではないでしょうか。


まずは基本動作の稽古をしっかりとやることが大切です。


基本の稽古を続けていくうちに、しっかりとした自分自身の立ち方

が決まってきます。


いかに速く、いかに強く、いかに使いこなすか、に重点をおいて

日々の稽古に励みましょう。


以上