昨年3月11日の東日本大震災によって膨大な「災害廃棄物」(以下「瓦礫」)が発生した。環境省の推計によると瓦礫の総量は約2253万トン(岩手476万トン、宮城1569万トン、福島208万トン)(※)に及び、岩手県で通常の約11年分、宮城県で約19年分にあたる量となっている。政府は、福島県の瓦礫は福島原発事故の影響を踏まえて県内処理とするものの、宮城・岩手の瓦礫について「広域処理」するとの方針(東日本大震災に係る災害廃棄物の処理指針/環境省・11年5月16日、災害廃棄物の広域処理の推進に係るガイドライン/環境省・11年8月11日、等)を打ち出し、2014年度末までに処理を終えることを目標に、全国の自治体に協力を要請してきた。

 しかし、対象となる瓦礫から微量の放射能が検出されることがあることから、受け入れを表明した自治体で汚染を懸念する住民の声が高まり、瓦礫の広域処理は滞っている。政府は、3月13日に関係閣僚会議を設置、災害廃棄物処理特措法に基づく協力の拡大を強く求めて、あくまで広域処理を進める予定である。瓦礫を道路の基盤や防潮林の盛り土材として利用したり、木くずを燃料や原材料として利用することを民間企業に要請するなども検討されている。

 この瓦礫の広域処理問題について脱原発運動や社民党の周辺でも、東日本大震災の被災地を支援する立場から受け入れに積極的な立場と、放射能の汚染を懸念する立場から受け入れに慎重な立場に別れ議論が続いている。複雑な要素が絡み合う問題であり、単純な答えを出すことは難しいが、この問題に関する社民党としての考え方を示し、論点の整理を行なうものである。

※環境省・3月19日現在。岩手県は仮置場における実測によって435万トンとしている。

1、瓦礫の処理は急務、復旧・復興の大前提である

 大量の瓦礫の存在は被災した街の再建の障害になっており、震災からの復旧・復興の大前提である。3月19日現在、処理を終えたのは瓦礫全体の7・1%にとどまっており、瓦礫の処理を急がなくてはならないのは当然だ。今後解体によって生じるものを除いた瓦礫の96%(※)は仮置場への搬入を終え、生活空間における深刻な散乱瓦礫の処理については目処がつきつつあるものの、海底の瓦礫引き上げや放射能汚染稲わらや牧草の処理など残された課題は多く、先が見えない困難な状況が続いている。 このような被災地の困難に連帯することは当然であり、膨大な瓦礫を被災地のみに押しつけ放置することは許さない。瓦礫を広域的に処理することには賛成である。

※環境省による。4%分のほとんどは福島県の警戒区域内のもの。

2、現在の「広域処理」方針は見直すべき

 しかし、情緒的に瓦礫の広域処理をあおるキャンペーンを繰り広げ、瓦礫の受け入れを被災地との連帯の踏み絵にするかのような、政府の「広域処理」の方針には問題がある。一般的なキャンペーンによって無秩序に受け入れを募るよりは、被災地周辺地域の処理余力や施設の状況に応じた、より具体的な処理のスキームを政府の責任で設定するべきではないか。もちろん、その際も、受け入れ住民への十分な説明と納得を得ることは当然である。

 そもそも、日本全国に大量の瓦礫を運び回ることは、余分なエネルギーを使い、CO2を余分に排出し、処理コストも割高となるなど問題点が多い。運搬中の事故のおそれも否定できない。瓦礫の移動距離は必要最小限にとどめ、遠方の自治体や住民には瓦礫処理以外の方法で被災地を支えてもらうことが合理的だ。

3、地域の実情に合わせた処理方法で

 政府はいったん決めた「広域処理」方針にのみこだわるのではなく、地域の実情に合わせてきめ細かく対策を練り直し、瓦礫処理計画を修正すべきである。

 被災地といっても瓦礫の深刻さ、仮置場の状況、復旧・復興の中身など、地域によって状況はまちまちだ。広域処理によって目前の瓦礫を処理することが何より急がれる地域もあれば、国の責任で域内の安全な場所に処理施設を建設する方が雇用や地域経済の立て直しにとって有益であると首長が主張(※)している地域もある。広域処理をすすめるとともに、現地処理の能力の拡大と加速化をさらに検討すべきだ。

 瓦礫の運搬事業や産業廃棄、建設コンサルタント業者等の利権に係わるのではないかとの指摘もあり、効果、リスク、コスト、処理費の透明性などについて、被災地住民の立場に立って最も有効な瓦礫処理方法は何かという視点に立ち戻ることが必要である。

※伊達勝身岩泉町長:「山にしておいて10年、20年掛けて片付けた方が地元に金が落ち、雇用も発生する」、戸羽太陸前高田市長:「陸前高田市内に瓦礫処理専門のプラントを作れば、自分達の判断で今の何倍ものスピードで処理が出来る」、(2月29日/朝日新聞等)

※広域処理を予定する瓦礫は401万トン(岩手57万トン、宮城344万トン)。両県瓦礫の19・6%(全体の17・8%)にあたる。

4、放射能に汚染した瓦礫は広域処理の対象とすべきでない

 政府は、広域処理の対象とする瓦礫は240~480ベクレル/kg以下を目安としており、焼却後の灰も8000ベクレル/kg以下となるため、一般の廃棄物と同様の方法で安全に埋立処理できるとしている。上部を厚さ50cm以上の土で覆うことで放射線量は年間0・01ミリシーベルト以下となり、周辺住民への健康に対する影響を無視できるレベルに抑えられるとのことである。

 しかし低線量被ばくの影響についてはいまだ完全には解明されておらず、どんなに低い放射能であってもそれに応じたリスクがあると考えるのが現在の常識である。微量であっても放射性物質は放射性物質として管理し続ける必要があり、広域処理の対象としたうえ従来の廃棄物と同様に取り扱うことには反対である。

 社民党は、低レベルの放射物質を放射性物質として扱わないこととする「クリアランス制度」を導入した2005年の原子炉等規制法改正に強く反対し、クリアランス制度自体に反対してきた。8000ベクレル/kg以下であれば従来の廃棄物と同様に扱えるという「基準」を設定すること自体に問題がある。

5、安全性に対する疑問は解決されていない

 環境省が設置した「災害廃棄物安全評価検討会」は、放射能汚染がれきであっても、一般ゴミ同様に「燃やして埋め立ててよい」と結論している。しかし、「放射能は焼却処分場のバグフィルターで99.9%除去できる」とする科学的根拠は、京都大学・高岡正輝氏の実験結果(2009年秋 /A4で4頁)のみであり、学会や他の専門家の査読も経ておらず、科学的客観的裏付けがあいまいである。「燃やして埋立て」という方針を策定した同検討会は、当初作成していた議事録を第5回以降の作成しない方針(議事要旨は作成)に転換し、多くの批判を受けている。仮に、バグフィルターが想定通りに機能したとしても環境中に放出される残りの「0・01%」も全体の量によっては無視できない量となる可能性があり、この影響も考慮されていない。汚染が確認された瓦礫については、広域であれ被災地においてであれ、焼却や埋め立てをするべきではない。放射性廃棄物として国の責任において処理するべきだ。

 また、すでに管理型処分場において放射能流出が起きており、処分場・処分方法についての検証も十分とは言えない(※)。海洋に埋め立てる計画もあるが、安全性が懸念される。まず「広域処理ありき」の強硬姿勢ではなく、焼却施設・処分場の周辺住民の疑問や不安に丁寧に対応する必要がある。

※環境省は、セシウムについて、バグフィルター付きの焼却炉で99.92~99.99%、電気集じん機の焼却炉で99.44~99.62%の除去率を確認したとしている。

※11年9月、流動床焼却炉の焼却灰(1800ベクレル/kg程度)を埋め立てていた群馬県伊勢崎市の一般廃棄物最終処分場から、国の基準を超える放射性セシウムが流出した。

6、予防原則を厳格に適用し安全に万全を期すべき

 「8000ベクレル/kg」は1kgあたりの放射能の濃度を示す基準であるから全体の焼却灰の量が多ければ、絶対量としては相当の放射性物質を含むことがあり得る。これが長期の間に、濃縮されたり偏在して環境中に流出する可能性は完全には否定できない。

 また広域処理によって多くの処分場所に分散させていくことは、将来、管理の行き届かない放射性廃棄物が生まれる危険につながる。

 さらに、保管、運搬、中間処理、埋立処分など作業に従事する労働者のリスクについても一定の「シナリオ」に基づく通り一遍の検討をしているだけであり、十分とは言えない。

 広島や長崎の被爆の影響についても、政府は長年にわたって過小評価して、被爆者の苦しみを放置してきた「前科」がある。被ばくの影響についてはいまだ十分に解明されてはいないのであり、放射線の影響を決して軽視するべきではない。現時点での放射線量が低くても、長期にわたって拡散し蓄積したり濃縮した場合のリスクは否定できず、予防原則(※)を厳格に適用すべきである。

※予防原則とは、環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼす仮説上の恐れがある場合、科学的に因果関係が十分証明されない状況でも、規制措置を可能にする制度や考え方のこと。

7、放射能は拡散させず、環境から隔離し管理することが原則

 岩手・宮城の瓦礫の広域処理を行なうにあたっては、悉皆の調査(サンプル調査でなく全部の調査)を行なって福島原発由来の放射能に汚染していないことが確認できたものに限るべきだ。

 わずかでも福島原発由来の放射能による汚染があった瓦礫については周辺の生活環境から隔離して、仮置場周辺の住民の安全を確保した上で、放射性廃棄物として処分することが必要である。具体的には「放射性物質により汚染されたおそれのある災害廃棄物の処理の方針」(災害廃棄物安全評価検討会・11年6月19日)に準じて、福島県内の災害廃棄物と同様に国の責任において処理を行なうこととするべきであり、国は処理計画を早急に策定すべきである。放射性物質はいたずらに拡散させず、可能な限り回収し、環境から隔離し封じ込め、管理することが原則である。

8、福島第一原発、第二原発を廃炉に

 このような重大な事態をもたらしてなお、政府・電力会社は原発の再稼働を企んでおり、原子力へのこだわりを捨てていない。福島の原発についても、直接事故を起こした福島第一原発1~4号機は廃炉が確定しているものの、他の原子炉の取り扱いは未定である。今後、福島県民が原発を認めることはあり得ず、政府は福島のすべての原発の原子炉設置許可を取り消し、廃炉を確定させるべきだ。福島第一原発事故による甚大な被害を受け、放射能に汚染した瓦礫の処理についても重大な役割を押しつけられる福島県に対して、国が最大限の配慮と支援を行ない、放射能汚染対策に責任を持つことは当然である。

9、放射能以外のリスクも検証するべきである

 瓦礫には放射能だけでなく産業廃棄物や医療廃棄物、未処理のアスベストや化学物質が混在している可能性がある。かつてダイオキシン問題等もあったため、各地の焼却施設の安全性は以前よりは格段に強化されているが、中には老朽炉も存在しており、市街地に立地している施設もある。瓦礫に混在した様々な物質をどの程度安全に処理することが出来るのか、個別に検証を行なって安全性を確認していく必要がある。また、炭化処理など焼却以外の処理方法についてもさらに研究し、より安全な処理方法を追求するべきだ。

10、被災地と連帯するために

 大都市のエネルギー消費のため地方に危険な施設を押し付け事故の後もその汚染を負担させ続ける原子力利用の構造は、日米安保を認めながら基地は沖縄に押しつけ沖縄県民の負担に目を閉ざす構造とも類似している。瓦礫と共に暮らさざるをえない東北の苦しみを他人事として、自らのわずかなリスクを拒否する「ニンビー(NIMBY: Not In My Back Yard=必要性を認めながら自らの近くに来ることは拒否する)」な態度にとどまれば、広範な人々の共感をえることは出来ない。震災による瓦礫全体と放射能汚染を同一に扱い、「受け入れ反対」のためにリスクを誇張し歪めるような主張は、問題の解決につながらないばかりか、被災地への差別にもつながりかねず断じて許されない。

 同時に、被災地の痛みを分かち合うとの美名の下で、放射能を分かち合うこと、全国に拡散させ環境中に放つこともあってはならない。私たちは原子力利用に反対する先頭に立ち、放射能のリスクを封じ込めながら、被災地の苦難に全力で連帯するという難しい課題に取り組んでいかねばならない。

(Ver.5)

瓦礫の広域処理に関する基本的な考え方

① 広域的な瓦礫処理自体は基本的には賛成。環境省による既定の「広域処理」方針については問題点を指摘していく。

② 現行の瓦礫の処理計画だけにこだわらず、仮設焼却施の増設等、現地処理の加速化をさらに追求すべきだ。

③ 広域処理にあたっては、瓦礫の移動についての効率を配慮し、合理的な処理の分担を、国の責任ですすめるべきである。

④ 広域処理の対象は、サンプル調査ではなく悉皆(全量)調査によって、福島原発事故由来の汚染がないことが確認でききたものに限るべきである。

⑤ 8000ベクレル/kgという基準は根拠に乏しく、従来のクリアランス(裾切り)の基準(セシウムの場合で100ベクレル/kg)と比べても非常に高い。放射性廃棄物はどんなに微量であっても放射性廃棄物として封じ込め管理することが必要でありクリアランスの設定自体に反対する。

⑥ わずかでも放射能による汚染が検出された瓦礫については福島県の瓦礫に準じて国の責任において処理するべきであり、広域処理の対象とするべきではない。

⑦ 3県以外の放射能汚染物質も同様に処理するべきである。

また、当「震災廃棄物(瓦礫)の広域処理問題についての論点整理」をまとめるにあたり、社民党宮城県連合からの意見書も参考にいたしました。(PDFファイルが別ウィンドウで開きます)

・3月15日:「論点整理」原案(党脱原発P T 案・Ver.1)

・3月19日:社民党宮城県連合 「瓦礫の広域処理問題についての論点整理(案)」に対する意見 その1

・3月29日:社民党宮城県連合 震災瓦礫物(瓦礫)の広域処理問題についての論点整理(案)への意見 その2

・3月29日:「震災廃棄物(瓦礫)の広域処理問題についての論点整理」(Ver.5)公表…上記参照


日本社会党
http://www5.sdp.or.jp/policy/policy/protection/2011earth/120329.htm