夜明け前・島崎藤村/本
最近、自分の本棚にある昔読んだものを手に取る。ふと目についたのが「夜明け前」。ずいぶん若い学生時代に読んだもので大体の話は覚えていたつもりだったが、そうではなかった。なんと面白い。あの頃それがわからなかった自分のことが悔やまれる。有名な書き出しで始まる。情景の説明や街道で本陣を構える家業のことや、若さゆえの主人公半蔵の苦悩などが描かれている。本陣という大名クラスが利用するだけあって建屋もおそらく立派なものなのであろう。大きな行列のあるときの馬や人足の手配などは大名家側と人足、農家側との間にあって並々ならぬ労力と気苦労がある。タイトル通り、幕末の木曽街道のことであるから、それまでの行列とは違う皇女和宮様の一行や、水戸の侍の一団など時代の変わり目ゆえの往来もある。当たり前だった参勤交代が無くなることによる街道筋宿場の役割や存立が危ぶまれるのではという思いも浮かび上がる。世の中がかわるという危機感、期待感、不安感が半蔵の胸のなかで波打つ。焦燥感に襲われながらも、半蔵が近隣の仲間、親、妻、子供への情愛を大切にする様子や国学への心酔などが細かく窺い知れる。
相当前に映画化されたことがあったようだが、観ることは叶わない。人気の幕末物ということで大河ドラマとかで採用していただけないかなと思ってしまう。映像で観たい。大きな街道の本陣家屋、大名行列、皇女和宮様の行列、不穏な情勢での侍の往来、当時の木曽の人々の暮らし、馬のこと山のこと農業のこと、話に事欠かない。以前妻籠宿や馬籠宿を旅したことがあるが、そこであったドラマを観たいものである。