まず初めに基礎知識…
法律上は、外猫への餌やりそのものを制限する法律はありません。ただし餌やりの結果、周辺住民への迷惑とならないように配慮する必要があります。
朝日新聞sippoより
https://sippo.asahi.com/article/10560179
一方で、奄美市などでは、希少種を守る目的で各地で『みだりな』餌やりを禁止する条例が施行されています。では、このような餌やり禁止条例によって、何が起きるのかをここでは議論したいと思います。
結論としては、餌やり禁止によって集落近くでの餌資源が減少し、猫が森林に侵入するリスクを上昇させたことが示唆されました。これは自然保護上も問題です。
アメリカの愛護団体Alley Cat Allies さんによると、餌やり禁止はTNRを困難にすること、TNRは科学的にその効果が支持されていること、餌やり禁止をしても餌やりがなくならないことなどを挙げ、餌やり禁止に反対しています。
集落近くでは、TNRと餌やり管理をきちんと行うことで、自然保護と動物愛護を両立させる対策を行なっていくのが理にかなっていると考えます。
奄美の餌やり禁止条例の効果
ここでは以下の文献を紹介します。
引用文献:J-STAGEより
Kazumi Shionosaki, Shigeki Sasaki, Fumio Yamada and Shozo Shibata著
Changes in free-roaming cat activity following a regulation prohibiting feeding: A case study at a mountain forest near residential area in Amami City on Amami-Ohshima Island, Japan
https://www.jstage.jst.go.jp/article/awhswhs/3/2/3_1/_article/-char/ja/
上記文献では、奄美において猫の餌やり禁止条例の施行前後の、奄美市鳩浜山林における猫の生息数の分析が、カメラトラップによって行われました。この研究の結果、条例の施行後は施行前よりも猫が森林に侵入するリスクが上昇することが示唆される結果が得られました。
この文献では野良猫と飼い猫の生息環境を分けて分析しています。
野良猫に関しては、餌やり禁止後にカメラにうつる猫の総数は減っていますが、林内で撮影される確率が上昇しました。飼い猫に関しては、総数に変化はないものの、林内で撮影される確率が上昇しました。
飼い猫の総数が条例前後で変化しなかった理由は、飼い主によって餌の供給があったからだと分析しています。
野良猫が林内で活動する確率が条例後に上がったのは、餌場の撤去によって林内で獲物を探す必要が出たためだと分析しています。
条例施行後に飼い猫が林内で撮影される確率が上がった理由は、調査エリアでの野良猫の総数が減少し、林内の野良猫が減ったことで、野良猫を避ける必要がなくなった飼い猫が林内に侵入するようになったと分析しています。
条例の施行によって、撮影される野良猫が減少した理由として、調査が行われた場所とは異なるエリア(希少種の住むエリアが想定される)に獲物を求めて侵入した可能性があると分析しています。またこの場合、自然保護上、猫に希少種が捕食されるリスクが上がる懸念を指摘しています。
ここで論文の筆者らは、餌やり禁止によって、長期的には繁殖を制限する効果があると期待しています。一方で、奄美市のこの研究だけで結論を急ぐのは難しいとしつつも、餌やり禁止は希少種を猫の捕食から守るのに適切な方法ではないだろうとも分析しています。そのため、希少種の生息域やその周辺での猫の捕獲を考えるべきだと言及しています。
海外の餌やり禁止法令への分析
ここでは、餌やり禁止法令や条例に複数の学術論文を分析して反対しているAlley Cat Alliesさんの声明を一部紹介します。
引用文献:Alley Cat Allies HPより
https://www.alleycat.org/resources/feeding-ban-position-statement/
餌やり禁止は科学的にも支持されていないとしています。
なぜなら猫は、餌やりを禁止してもゴミあさりなどをして生き延びることができるからだとしています。また餌やり禁止をしても、餌やりさんに餌やりをやめさせることは難しいとしています。
餌やり禁止をすると、野良猫の生息数を制御するのに有効なTNRが行い難くなります。さらには、TNRによって地域と猫のめぐる環境を改善しようとする人間を罰することになります。
餌やり禁止によって、餌やりの取り締まりに税金が投入され、避妊去勢などの支援を遠ざける傾向があるとしています。
感想
ご紹介したように奄美市では、餌やり禁止によって、餌を求めて猫が林内に侵入する確率が上がったとしています。
そして近年、森林に侵入した猫(ノネコ)の殺処分を辞さない捕獲が行われていますが、捕獲された猫はNPOゴールゼロさんなどによって保護譲渡されています。
NPOゴールゼロさんのブログによると、野生化した猫として捕獲された猫のうち、TNR後のさくらねこの割合が年々上昇しているそうです。
NPOゴールゼロさんのブログより↓
https://ameblo.jp/npogoalzero/entry-12781449539.html
餌やり禁止条例の影響もあって、さくらねこが森林に侵入してしまうようになり、その後林内で捕獲され、ボランティアの保護譲渡の負担が増えているというふうに捉えることもできます。
奄美市はTNRが行われているそうですが、その後の餌やり管理はどのようにされているのでしょうか。野良猫へのTNRに加え、餌やりをきちんと行い、猫の林内への侵入を防ぐという方法で蛇口を閉めるという方法もあるのではないかと思います。
こうすれば、保護譲渡のボランティアの負担も減らすことができるように感じます。
そして猫の捕獲や一時保護費用が抑制され、自然保護だけではなく、税金の運用上も効率的なのではないかという印象を受けます。
また猫の繁殖制限を期待する場合、本当に餌やり禁止の効果があるかどうかも怪しいのではないでしょうか。
紹介してきたように、森林で獲物を見つけたり、ゴミ漁りをしたりすることで餌に困らなければ、猫は繁殖し生き延びることができることでしょう。集落の猫については、餌やりを禁止せずに、TNRと餌やり管理の徹底によって繁殖を制限し、山林への侵入を防いだ方が、理にかなっているのではないかと思います。
TNRは科学的にも、猫の頭数制御に効果のある方法であるということについては、以前一般社団法人HappyTabby さんのブログのリブログにてご紹介しましたが、
以前のブログ↓
https://ameblo.jp/oki-nya-shimobe/entry-12786269647.html
後日別の論文を含めて、複数の文献等を読んで、改めてまとめてみようと思います。