(♯15からの続き続き続き)


 ある日パパと二人で語り合ったのです。この世に生きる喜びや悲しみのことなんかを主に。

 目の前のステージで、真っ白なドレスの胸の部分に真っ赤なハイビスカスを左右対称になるよう刺している前衛芸術団体のような格好をした30名ほどの女性が、口を大きく開け顔を上下に伸ばす感じ感を前面に押し出した大衆合唱団特有の歌唱方法でグリーングリーン、青空にはー、なんておめきながら叫びながらいまいちようわからん唄を必死のパッチで唄っている。
 ステージの上で修学旅行の記念撮影よろしく階段状に整列している女性たち。その最上段、右から3番目に千春の姿。

 しかし、どこぞのおぼこがパパと二人でこの世に生きる喜びや悲しみについて語り合っていた最中にも、己はステージ上にいる女性たちではなくその背景/バックグラウンドを見ていたわけで凝視していたわけで睨めつけていたわけで、ではそのとき己はいったいなにをガン見していたのでしょうか。
 それはずばり、垂れ幕でございます。ステージの背景/バックグラウンドに垂れ下がっている大きな大きな垂れ幕でございます。

 その垂れ幕には、書体でいうとAーOTFゴシックMB101Pro・20万級ぐらいの大きさで、

「仏桑華昇魂会・合唱部」

 という文字がビシッと、ビシーーッと書かれていたわけで描かれていたわけで、それはつまりどういうことを意味しているのかというと、はい終了。はいゲームセット。はい、これにて一件落着。
 いや、まあ、なんていうか、こう、わかってたけどね。もちろん覚悟はしてたんですけどね。ただ、こうして実際にそのことが確定してしまうと、いや、まあ、なんていうか、こう、なんとも形容しがたい虚無感というか焦燥感というか悲しみというかやりきれなさというか、とにかくそういった漠然とした負の情感にからだが包まれましてね。なんだか頭が薄ぼんやりしてきましてね。いやはやどうも、まいったねこりゃ。お兄さん、正直まいっちゃったよ。おほほ。おほほん。おっほーん。

 なんて独り言をいいながら自分のおでこをぴしゃりと叩きながら、なんていうか、ちょっとこう、もはやこの場にはいられないって感じ? いますぐどこかに逃げ出したいって感じ? うん、そうそう、そんな感じ感じ。じゃあ帰る? うん、帰る帰る。つって俺、さりげなく席を立って。さりげなく出口に向かって。


(♯17へ続く続く続く)