(♯13からの続き続き続き)


 仏桑華昇魂会。もちろん聞いたことはある。南国に咲く花の代表格であるところのハイビスカス、和名=仏桑華、を唯一無二の絶対神として崇めるという滑稽で珍妙で珍奇な戒律が話題を呼び、最近はワイドショウなんかでも特集が組まれるほどブームになっている、日本でも一、二を争う有名な新興宗教団体だ。あの団体の集会だったんだね。ふむふむ、なるほどなあ。って感心してる場合じゃないんですけどね。ええ。
 それからおよそ2時間。モンデリッヒ伯爵その他の、よくわからない説法(のようなもの)を聞かされたり、各グループに分かれてこれからの日本についてディスカッション(のようなもの)をさせられたり、次回の選挙対策(のようなもの)に関するみんなの意見をまとめたり、それはもう己にとってまるで意味のない、まるで関心のない、まるで興味のない話が延々と長々と続いたわけで、さすがに限界ならびに危険を感じた己は、ちよつと前をすみませぬ、ちよつとトイレツトに。なんて誰に云うでもなくさりげなく何気なく呟きながらその部屋を出たのち、そのままダッシュで逃げました。はあはあいいながら家に帰りました。2時間かかりました。ものすごく寒かったです。ものすごく悲しかったです。おわり。エンドマーク。スタッフロール。その後ろに撮影中のNGシーン。
 それにしてもなぜ先輩は嘘をついてまで己をあの集会に参加させたのだろう。それは未だにわからないのだけれども、爾来、己の中で「大人+宗教×嘘つき=悪∑不愉快」という高等連立方程式が成り立ってしまったわけで、とくに直接的な要因であるところの仏桑華昇魂会という団体に対しては、なんとも形容しがたいある種の怨念・宿怨のようなものをボクは抱くようになったのである。なんで急にカタカナでボクやねん。
 そして、ここがもっとも肝心・肝要な部分なのだけれども、あの日あのときあの民家で、阿呆らしいことこの上ない説法というか戯れ言がはじまる前にみんなが唱えていた呪文のような祈りのようなゴニョゴニョした言葉と、千春の家の和室から漏れ聞こえてきた呪文のような祈りのようなゴニョゴニョした言葉とは、まあ、あまり云いたくないのですが、まあでも仕方ないから云いますが、ほぼ完全に合致していたのであります。ほぼパーフェクトにシンクロしていたのであります。しかも。

 これはもはや絶対に云いたくないのですが、まあでも仕方ないから云いますが、千春の家の和室には、あの日あのときあの民家で見たものと同じような、ちょっと派手めで大きめの仏壇のような祭壇のような神壇のようなものが置かれていたのであります。
 それってつまり結局ようするに、そういうことだよね? 正直、あまり考えたくはないのだけれども、やっぱりそういうことなんだよね? ね? ね?
 とはいうものの、これらはいうなればただの状況証拠であり、つまり現時点においては「千春=昇魂会会員」と断定できるまでには至っていないわけで、まあでも、冷静に考えればほぼ確定なんですけどね。ほぼ間違いないんですけどね。あは。あはは。って、でもさあ、万が一ってことがあるじゃん。まだ100%確定ってわけじゃないじゃん。そうだろ諸君。そう思わないかね諸君。諸君って誰やねん。
 とにかく千春のことを愛していた己は、どうしてもその事実を受け入れることができず、どうかなにかの間違いでありますやうに、なんて東の空に向かって日々祈っていたのだけれども、どうやらその祈りは天空の城に住むGODには届かなかったようで、ついに己のからだに真実/真正という名の鉄槌が振り下ろされることになる。合掌/合唱。


(♯15へ続く続く続く)