(♯10からの続き続き続き)


 家からおよそ十分ほど歩いたところにある、大きめの交差点に着到。かちかち震えながらしばらく待っていると、当時流行っていたホワイトボディの新型フェアレディZが目の前に停まった。助手席側の窓がウイイイーンと開く。
「お待たせ。寒かっただろ」
 運転席から低い声。すべてが完璧。すべてがパーフェクト。ああ、やっぱり先輩はかっこいい。めっさかっちょいいぜ。己もはやく大人になって、先輩みたいにかっちょいいクールな人間になりたいなあ、なんて思いながら助手席側のドアーを開ける。シートに体をすべりこませる。ドアーを閉める。ドアーを閉めた。閉めました。
 スポーツカー独特の、適度に圧迫・圧縮された車内空間がじつに心地よろしい。これぞ大人の空間。This is 大人の世界。流れる景色を見ながら、そんな満足感のような優越感のような気持ちを味わっていた己に、
「あのさあ、ご飯を食べる前にちょっと寄るところがあるんだけどさ、ついでだから一緒に来てくれないかなあ」と頼れる兄貴がいう。
 もちろん合点承知之介でやんす。わい、これからもずっと兄貴についていきますさかい。なんでも云うておくれやすおいでやす。
 それまで明々とした国道を走っていたホワイトボディの新型フェアレディZが、街灯のない細い小道に入っていく。山のほうに向かってぐんぐん走っていく。

 窓の外に雪。ヘッドライトに反射するように。ちらちらと流れるように。


(♯12に続く続く続く)