あ~、
やっと休みだ。
疲れた。もう寝たい。
もう眠たい。
最近、バラエティーやらドラマ撮影やら雑誌取材なんかでスケジュールに隙間がなかったから、
疲れが溜まって溜まって、
ベッドにダイブしたら3秒くらいで眠れる。
……
そんなときに、
家に帰ったら、
『せっかくの休みなんだから、学校行ってきなさい』
ってお母さんに言われた。
……
いや、確かに私は学生だから学校行くのは当然かもしれないけど、
ちょっとくらい休ませてよ。
せっかくの休日なんだから、家でごろごろさせてよ。
という、私の願望も届かず、
学校へ行くはめになってしまった。
あ~、
だる。
長い道のりを歩み、
やっとの思いで学校に着いた。
……だけど、
「ねえねえ、あれ前田さんじゃない?」
「え!? 本当!?」
周りからひそひそと何か声が聞こえてくる。
……
そうだった。私芸能人だ。
やだな~、学校でも休めないじゃん。
※
……
案の定、休めなかった。
「あ、あの、前田さん。ずっと前からファンでした。握手してください」
「あ、いいですよ」
「あっちゃん!! こっちにサインしてくれ!!」
「あ、わかりました」
す、すごい人数。
いつものように守ってくれる人もいないから、
もう押し寿司のようにギュウギュウ。
何人いるんだろう?
ざっと100人くらいかな?
……
いくらなんでもこの人数は対応しきれない。
「こらーーーーー!! お前ら教室に戻れ! 授業始まるぞ!」
あ、先生。
……なんていう先生だっけ? 名前よく覚えてないや。
ま、いっか。
やっと解放された。
この学校、こんなに私のファンいるんだ。
知らなかったな。
……
たぶんみんな、
『テレビの中のアイドル、前田敦子』を見ている。
誰も、
『一人の女子高生、前田敦子』を見ていない。
やっぱり、どこ行っても変わらない。
誰にあっても変わらない。
みんな、アイドルに接するように接してくる。
お笑いの方も、
『今や国民的アイドルの前田敦子ちゃん。いや~いつ見てもきれいだね』
学校のみんなも、
『前田さん! サインしてください』
先生も、
『眠いんだったら寝てても良いぞ』
……親も
『ほら、敦子はアイドルなんだから、もっときれいに食べなさい』
誰もが、
本当の前田敦子を見てくれない……
みんな、私がかぶってるアイドルという殻しか見ていない。
だから、
誰も好きになれない。
誰も好きにならない。
本当の私を見てくれないから、
私は……永遠にひとりぼっち。
※
昼休み。
多くの生徒が私を見ている。
……
なんだか憂鬱。
そうだ。
パン買いに行こう。
今日お母さん弁当作ってくれなかったから
何食べよっかな~、
久しぶりに焼きそばパンとか食べてみたいな。
あ……
でもこの学校、
確か焼きそばパン人気だったっけ。
もしかしたら売り切れてるかも……
私はちょっと不安に思いつつも、
売店を横から覗く。
うわ~、
すごい人混み。
もう列なんか関係ないくらい人が押し寄せている。
これじゃあ、買えないな。
「あれ? 前田さんじゃない?」
「あ、本当だ。……道開けた方が良いかな?」
……
なんか聞こえる。
変なことが起きる前に戻ろうかな。
「あ! あっちゃんだ! お、お前ら! 道開けろ!」
……
誰か一人の男子生徒が、
大声で叫びだした。
いや、
そんなに叫ばなくても。
と思った時には、ちょっと遅かった。
もうその場にいた全員が、端に身を寄せ、真ん中に道が空く。
うわ~、
通りづら。
でも……せっかく開けてもらったし、
通った方が良いのかな?
てか、全員こっち見てるし。
私はしょうがなく、
その空いた道を通る。
かなり通りづらくはあったけど、
頑張って歩を進めた。
「あ、あの……焼きそばパン、一個下さい」
……道を空けてくれた生徒が誰も喋らない中、
私は顔を真っ赤にして注文する。
恥ずかしい……
「はいよ。あ、お金はいらないから。いつも頑張ってるからね。後、メロンパンもサービスであげるよ」
売店のおばさんは、そういって焼きそばパンとメロンパンを私にくれた。
……
ありがたいけど、
やっぱりこの人も、アイドルの前田敦子としてしか、接してくれない。
あんまり良い気分じゃないけど、
もらった物を突き返すのもあれだし……
「あ……ありがとうございます」
私は一礼して、
その場を急いで後にした。
※
……
教室で食うのはなんかやだな、
食いづらいし。
どっか人気のないところで食べたいな。
どっかないかな~……
あ、そうだ。
屋上で食べようっと。
……どうか誰もいませんように。
私はそう祈りながら、ドアをゆっくり開ける。
人は……
いない。
よし、食べようっと。
私は柵の近くにあるベンチに腰をかけ、
パンの袋を開ける。
……
風が気持ちいい。
空も晴れてて、絶好の屋上日和。
誰もいない……
私だけの空間。
もう、教室に戻りたくないな~。
ガチャッ
へ?
あ……人。
逃げようかな。
バレたらそれでなんか面倒だし。
騒がれて人が集まっても嫌だし。
私は顔を伏せてバレないようにした。
……
こっちに気がつきませんように。
「あ、あっちゃんじゃん!」
バレた。
なんか言われる前に逃げよう。
「久しぶりじゃん」
……
ん?
久しぶり?
私は顔を上げてその人の顔を確認する。
あ、
宮澤佐江さんだ。
前、私が学校に来た時も、
私に話しかけてくれたのを覚えてる。
「あ~! 焼きそばパン! いいな~、てかよく買えたね」
……買わせてもらったって言った方が正しいかも。
「あ、そうだ。佐江、今日サンドイッチなんだけど、焼きそばパンと半分個しない?」
「……うん、いいよ」
あ、なんか、
友達みたい。
学校って、こんな感じなのかな。
こうやって仲の良い友達と一緒に食べて、一緒に話すものなのかな。
……すごく楽しい。
「あの、宮澤さん。柏木さんとは、食べないんですか?」
「え、あっちゃんそんなことまで知ってるの? いや、今日はゆきりん早退しちゃったからさ。一人なんだ」
だから屋上に来たんだ。
……
柏木さんには悪いけど、
早退してくれて、ありがとう。
「てか、宮澤さんってやめて。別にクラスメイトなんだから、佐江ちゃんって呼んでよ」
「え……さ、佐江ちゃん」
「そうそう、その方がしっくり来る」
……これが友達。
この関係を、友達っていうのかな?
じゃあ、
「ねえ、佐江ちゃん……」
「ん?」
「私たちって……友達?」
もしかしたら、
私にとって、初めて友達といえる人かもしれない。
休みの日、買い物とか言って、
学校ではお喋りして、
たくさん遊ぶ人。
その『友達』っていう関係に、
私と佐江ちゃんはなってるのかな?
「当たり前じゃん。こうやって仲良く話してる時点で、もう友達だよ」
……
そうか。
友達なんだ。
私と佐江ちゃんは……もう、
友達。
なんだか、
胸がいっぱいになった気がする。
これが、最近味わってない。
喜び。
続く