厚生労働省は17日、若者の使い捨てなどが疑われる「ブラック企業」の調査を9月に実施し、対象の5111事業所のうち82%に当たる4189事業所で労働基準関係法令の違反が見つかったと発表した。ブラック企業の調査を厚労省が行うのは初めて。同省は違反があった事業所に是正勧告を行った上で、是正が見られない企業については公表し、書類送検する方針だ。
2013年12月17日時事通信社
ブラック企業問題の議論でもっとも俎上にのせられるのが
長時間労働と未払い賃金です。
なぜかくも日本人労働者はサービス残業をしてしまうのでしょうか?
サービス残業というと、社員が唯々諾々と
毎晩深夜まで仕事をさせられているイメージです。
しかし、実際は全員がそうということではありません。
■ ブラックフォロワー社員
私はかつて、ブラック企業に勤めた経験があります。
毎日職場には社長の社員を罵倒する怒声が響き渡り、
5年で5人もメンタルヘルス疾患の従業員を出すような実に真黒い会社でした。
この会社では、仕事が終わり
22時前に帰ろうとすると、
会社の出口にたどり着くまでに
「お前、もう帰るの?」
と嫌みたっぷりに言ってくる同僚が必ず何人かいて
気持ちよく帰れたことはめったにありませんでした。
そういう嫌な社員は毎日、朝8時から夜0時まで
「これが自分の生き様だ」と、張り切っている自己心酔。
「仕事楽しい」と言いながら
目にクマつけて毎日イライラキリキリしながら長時間働いていました。
ブラック企業においては
経営者だけではなく、一般の社員もブラックである
ということが往々にしてあるのです。
さきほどの「もう帰るの?」とプレッシャーをかけ
他の社員をサービス残業に誘導する
モーレツブラック社員は
たいがい社長のお気に入りであります。
だから彼らは職場の中心人物として君臨することが多く、
他の社員を無料奉仕させることを促進させるという役割を担っています。
最近、ブラック企業がどういったものなのか、その定義を
本や雑誌やネット上でよく見かけますが、私の実感としては、社長の片腕となって
会社のブラック化に拍車をかける“ブラックフォロワー社員”の存在も
ブラック企業の特徴の一つであることはまちがいないと思います。
■ ほんとうはタダ働きをしたい社員たち
このようなサービス残業大歓迎、
しかも無料奉仕こそ会社の恩義に報いる正義なりと言わんばかりに
自らブラックの奴隷となり、しかも
自身の滅私思考を他の社員にも当然のように押し付けてくるあの発想
いったいどこからくるのだろうかと
あの会社にいた当時、私はずっと不思議に思っていました。
ブラック社長による
洗脳のたまものか、
社長の寵愛を守らんと躍起になってのことなのか
それとも権威権力に弱い日本人の悲しい性なのか?
とにかくそのサービス残業をよしとする精神が私には疑問でした。
こうしたブラック企業の深層をふまえた上で
世の長時間労働やサービス残業がまったく減る気配がない様相を見ると
ほんとうは、
労働者自身がサービス残業をしたがっている
のではないだろうかと思えてきます。
社員が意識の奥底で
「金はいらないから俺はずっと会社に残って仕事をしていたいんだ」
という意識があるから残業をしても賃金は請求せず
いつまでもブラック企業をのさばらせる
ことになっているのではないかと思うのです。
こういうことを言うと、
「そんなばかな、
自らタダ働きをしたがる人間などいるわけない」
と信じられない人もいるでしょう。
でも、これは、
人間の心理に照らしてみると案外あり得る話なのです。
■ 報酬とやる気の関係
人間には自分が好きでしていた行為に値段がつくと
そのことに本質的な興味を失うという心理的特性があります。
これは、アンダーマイニング効果といって、
さまざまな心理実験で明らかになっている理論です。
内発的に(自分が好きで)していた行動に外発的報酬(金銭など)
を与えると人はモチベーションを下げてしまうのです。
例えば、好きなゲームを普通にしている場合は何時間でも続けることができるが、
そのゲームのクリアに報酬が与えられるとなったとたんにやる気がなくなり
ゲームする時間が前より減っていくという現象が起きるのです。
この理論を逆に解釈すると
報酬を与えなければ人のやる気を持続させることができるということもあり得ることになります。
また、人の心理には報酬によって
辛くて嫌な仕事でも「好きな仕事」と認識する仕組みもあるのです。
■ 高報酬の方がおもしろい?…フェスティンガーの認知的不協和理論
心理学者のレオン・フェスティンガーは、ある実験をしました。
複数の被験者を2群に分け、
物をお盆の上に置いたりどかしたりといった
すごく単調でつまらない仕事を数十分させるのです。
そして片方の群には、20ドルの報酬を渡し、
もう片方の群には1ドルしか渡しません。
その後、両方の群の人たちに別々の部屋に行ってもらい、
それぞれの部屋にいる人に、
先ほどのつまらない仕事のおもしろさについて話をしてもらいます。
果たして20ドルの報酬をもらった人と1ドルしかもらえなかった人、
どちらがつまらない仕事を「おもしろかった」と言う度合いが高かったのでしょうか?
多くの人がなんとなく20ドルもらった人の方が
「あの仕事はおもしろかった」という率は高いと思うかもしれません。
しかし実際は、
1ドルしかもらえなかった群のほうが
「あの仕事はおもしろかった」という率が高かったのです。
この現象について仕事に対して「認知的不協和」が発生したとフェスティンガーは
表しました。
認知的不協和とは、自分の中で矛盾する事実を認識することで生じる不快感を表す心理学用語です。
例えば、愛煙家が、
「タバコは肺がんの発生確率を高める」という事実を認識する。
しかし、愛煙家は、自分はタバコが好きであり禁煙なんかできないという認識も曲げられない。
この矛盾する認識がぶつかりあって生じる不快感が、認知的不協和であります。
そして、この認知的不協和にさいなまれた愛煙家は、
「タバコを吸わない人でもガンになる人はなる」と
自分に言い聞かせてタバコを吸い続けます。
これを認知的不協和の解消と言います。
このような心理現象が報酬と労働に対するモチベーションとの関係でも発生することがあるのです。
フェスティンガーの実験では、
20ドルをもらった人は
「たくさんもらえたんだから」ということで
つまらない仕事のおもしろさを語るという不協和が解消されてしまいます。
そのため、
「あの仕事はつまらなかった。でも、20ドルももらえたんだ」
と仕事おもしろさについては本当のことを言ってしまいます。
それに対して、1ドルしかもらえなかった人は不協和を解消することができません。
だから、「1ドルしかもらえなかったのに、自分がさせられた仕事がつまらないなんて認めたくない」という心の奥底に生じるモヤモヤを解消しようとして
本当はつまらなかった仕事をおもしろいと思いこむようになるのです。
■ 取り締まりの限界
ブラック企業の給与水準は低廉であることが多い。
だからこそ、ブラック社員は
自分の不協和を解消しようと
「自分がしている長時間労働はおもしろい、こんなおもしろいことを喜んでやらない奴はバカだ」と自分に思い込ませるのではないかと思います。
こういった労働者自身の心理の観点による
ブラック企業を作るのは思い込みの激しい社員自身であるという見方をした場合、
ただ企業の法令違反を取り締まるだけでは、
ブラック企業問題は根本的な問題解決につながらないと思うのです。
2013年12月17日時事通信社
ブラック企業問題の議論でもっとも俎上にのせられるのが
長時間労働と未払い賃金です。
なぜかくも日本人労働者はサービス残業をしてしまうのでしょうか?
サービス残業というと、社員が唯々諾々と
毎晩深夜まで仕事をさせられているイメージです。
しかし、実際は全員がそうということではありません。
■ ブラックフォロワー社員
私はかつて、ブラック企業に勤めた経験があります。
毎日職場には社長の社員を罵倒する怒声が響き渡り、
5年で5人もメンタルヘルス疾患の従業員を出すような実に真黒い会社でした。
この会社では、仕事が終わり
22時前に帰ろうとすると、
会社の出口にたどり着くまでに
「お前、もう帰るの?」
と嫌みたっぷりに言ってくる同僚が必ず何人かいて
気持ちよく帰れたことはめったにありませんでした。
そういう嫌な社員は毎日、朝8時から夜0時まで
「これが自分の生き様だ」と、張り切っている自己心酔。
「仕事楽しい」と言いながら
目にクマつけて毎日イライラキリキリしながら長時間働いていました。
ブラック企業においては
経営者だけではなく、一般の社員もブラックである
ということが往々にしてあるのです。
さきほどの「もう帰るの?」とプレッシャーをかけ
他の社員をサービス残業に誘導する
モーレツブラック社員は
たいがい社長のお気に入りであります。
だから彼らは職場の中心人物として君臨することが多く、
他の社員を無料奉仕させることを促進させるという役割を担っています。
最近、ブラック企業がどういったものなのか、その定義を
本や雑誌やネット上でよく見かけますが、私の実感としては、社長の片腕となって
会社のブラック化に拍車をかける“ブラックフォロワー社員”の存在も
ブラック企業の特徴の一つであることはまちがいないと思います。
■ ほんとうはタダ働きをしたい社員たち
このようなサービス残業大歓迎、
しかも無料奉仕こそ会社の恩義に報いる正義なりと言わんばかりに
自らブラックの奴隷となり、しかも
自身の滅私思考を他の社員にも当然のように押し付けてくるあの発想
いったいどこからくるのだろうかと
あの会社にいた当時、私はずっと不思議に思っていました。
ブラック社長による
洗脳のたまものか、
社長の寵愛を守らんと躍起になってのことなのか
それとも権威権力に弱い日本人の悲しい性なのか?
とにかくそのサービス残業をよしとする精神が私には疑問でした。
こうしたブラック企業の深層をふまえた上で
世の長時間労働やサービス残業がまったく減る気配がない様相を見ると
ほんとうは、
労働者自身がサービス残業をしたがっている
のではないだろうかと思えてきます。
社員が意識の奥底で
「金はいらないから俺はずっと会社に残って仕事をしていたいんだ」
という意識があるから残業をしても賃金は請求せず
いつまでもブラック企業をのさばらせる
ことになっているのではないかと思うのです。
こういうことを言うと、
「そんなばかな、
自らタダ働きをしたがる人間などいるわけない」
と信じられない人もいるでしょう。
でも、これは、
人間の心理に照らしてみると案外あり得る話なのです。
■ 報酬とやる気の関係
人間には自分が好きでしていた行為に値段がつくと
そのことに本質的な興味を失うという心理的特性があります。
これは、アンダーマイニング効果といって、
さまざまな心理実験で明らかになっている理論です。
内発的に(自分が好きで)していた行動に外発的報酬(金銭など)
を与えると人はモチベーションを下げてしまうのです。
例えば、好きなゲームを普通にしている場合は何時間でも続けることができるが、
そのゲームのクリアに報酬が与えられるとなったとたんにやる気がなくなり
ゲームする時間が前より減っていくという現象が起きるのです。
この理論を逆に解釈すると
報酬を与えなければ人のやる気を持続させることができるということもあり得ることになります。
また、人の心理には報酬によって
辛くて嫌な仕事でも「好きな仕事」と認識する仕組みもあるのです。
■ 高報酬の方がおもしろい?…フェスティンガーの認知的不協和理論
心理学者のレオン・フェスティンガーは、ある実験をしました。
複数の被験者を2群に分け、
物をお盆の上に置いたりどかしたりといった
すごく単調でつまらない仕事を数十分させるのです。
そして片方の群には、20ドルの報酬を渡し、
もう片方の群には1ドルしか渡しません。
その後、両方の群の人たちに別々の部屋に行ってもらい、
それぞれの部屋にいる人に、
先ほどのつまらない仕事のおもしろさについて話をしてもらいます。
果たして20ドルの報酬をもらった人と1ドルしかもらえなかった人、
どちらがつまらない仕事を「おもしろかった」と言う度合いが高かったのでしょうか?
多くの人がなんとなく20ドルもらった人の方が
「あの仕事はおもしろかった」という率は高いと思うかもしれません。
しかし実際は、
1ドルしかもらえなかった群のほうが
「あの仕事はおもしろかった」という率が高かったのです。
この現象について仕事に対して「認知的不協和」が発生したとフェスティンガーは
表しました。
認知的不協和とは、自分の中で矛盾する事実を認識することで生じる不快感を表す心理学用語です。
例えば、愛煙家が、
「タバコは肺がんの発生確率を高める」という事実を認識する。
しかし、愛煙家は、自分はタバコが好きであり禁煙なんかできないという認識も曲げられない。
この矛盾する認識がぶつかりあって生じる不快感が、認知的不協和であります。
そして、この認知的不協和にさいなまれた愛煙家は、
「タバコを吸わない人でもガンになる人はなる」と
自分に言い聞かせてタバコを吸い続けます。
これを認知的不協和の解消と言います。
このような心理現象が報酬と労働に対するモチベーションとの関係でも発生することがあるのです。
フェスティンガーの実験では、
20ドルをもらった人は
「たくさんもらえたんだから」ということで
つまらない仕事のおもしろさを語るという不協和が解消されてしまいます。
そのため、
「あの仕事はつまらなかった。でも、20ドルももらえたんだ」
と仕事おもしろさについては本当のことを言ってしまいます。
それに対して、1ドルしかもらえなかった人は不協和を解消することができません。
だから、「1ドルしかもらえなかったのに、自分がさせられた仕事がつまらないなんて認めたくない」という心の奥底に生じるモヤモヤを解消しようとして
本当はつまらなかった仕事をおもしろいと思いこむようになるのです。
■ 取り締まりの限界
ブラック企業の給与水準は低廉であることが多い。
だからこそ、ブラック社員は
自分の不協和を解消しようと
「自分がしている長時間労働はおもしろい、こんなおもしろいことを喜んでやらない奴はバカだ」と自分に思い込ませるのではないかと思います。
こういった労働者自身の心理の観点による
ブラック企業を作るのは思い込みの激しい社員自身であるという見方をした場合、
ただ企業の法令違反を取り締まるだけでは、
ブラック企業問題は根本的な問題解決につながらないと思うのです。