画像・詩シリーズ #5 バール | nishiyanのブログ

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この列島の一住民です。(九州)
今までにない最悪の復古的イデオロギー政権を退場させるため消費(GNPの約6割を占める家計消費)を意識的に控える活動を広めることを開始。2017.12.14に休止。★ひとり継続中。

バール

山際の畑の隅の
父が自分で建てた農業倉庫
わたしは使ったことがない
ただ柿の枝がその小屋の屋根に懸かるので
何年か屋根に上って柿を取ったことがある
もう50年は経っているだろうか
学校や就職で家を出ていたからよくわからない
トタン屋根が穴が開いたりして
もう使い物にならない
これ以上のほったらかしもまずいかなと
その小屋を解体することにした

それにはバールが要るなと思いついて
バールを買った
どこで何に使ったかは忘れたが
若い頃バールを使ったことはある

バールだけで解体できるわけじゃないけど
バールがないとどうしようもない
明治期に洋くぎが使われるようになって
西洋のバールが登場したという
バールひとつと
ぼくのひとつの手と
からだ全体で力を込める
たぶん歴史の古いてこの原理
次々に板やトタンがはがれていく

日にちが決まっているわけでもないから
焦る必要もなく
少しずつ少しずつ
小屋を解体していく

父はいろんなものをそのままにして
逝ってしまった
「終活」とかいう言葉まで生まれる時代になってしまったが
人はそんなにきちんと折り畳んで逝ってしまえるものじゃないようだ
引き継いだ者は
小屋を解体するなり補修するなり新築するなり
引き継いでいく

というわけで
ぼくの先々のこともあり
ぼくはこの小屋を解体している
バールのちからには静かな感動が湧いてきて
ぼくの手はそんなバールに呼応して
わりと無心に
少しずつ小屋を解体していく

ところで
言葉もまた引き継がれる
考え抜かれた誰かの固有の言葉が
誰かによって
固有のやり方で引き継がれる
そんな言葉を小屋に例えるなら
引き継ぐ者は
一部解体したり
増築したり
補修したり
その小屋の構成を参考に
全て解体して新築し始めたり
いろんな引き継ぎ方があるようだ

そんな時
言葉のバールは
ことばのからだに呼応しながら
どんなふうに活動しているのだろうか