久山療育園の宮﨑医師の文献を参考に、まとめてみました。

重症児のインフルエンザ対策 その2

インフルエンザ対策について述べた後、200212月から20033月にかけてインフルエンザが猛威を奮いました。中でも福岡県が患者発生数がトップとなり、2位の大阪府の倍近く報告されたこともありました。型も最初はA型が猛威をふるい、後半はB型が追いかけるように散発的に流行しました。久山療育園では入所者の全員にワクチンの接種を行なっていますが、生活型で体力があるひかり棟にA型では70%を超える罹患率になってしまいました。その後、B型が散発的に流行しました。

1.予防接種をしているのに何故感染するのか

ワクチンには感染に対して約50%の流行阻止効果と、約80%の重症化阻止効果があると言われています。幸い重篤になった重症児者は一人もいませんでしたので重症化阻止効果はあったと思いますが、70%を超える罹患率からはワクチン(用いられた株)の発病阻止効果は充分ではなかったと言わざるを得ません。昨年度のインフルエンザ感染の実状については、罹患率では入所者79名中A型33名(41.8%)で、このうちB型にも罹患した者6名でした。B型の発生については、全体で10名(12.7%)でした。特に病棟別では、ひかり棟(45名)中、A型36名(80%)、B型5名(11.1%)でした。医療上、より重症であるめぐみ棟でA型の発生を見なかったことは不幸中の幸いでした。以上が意味することは、外部からのインフルエンザの移入を防ぐことは困難ですが、病棟毎の交流を禁止するなどの園内対策は有効であったことを示しています。

また予防対策に国を挙げて取り組んでいるにもかかわらず、大体4年ごとに流行が見られることは、気象条件だけではなく、インフルエンザウイルス株の変異が常に起こっていることを指し示しています。例えば人間には病原性が弱いと言われていたコロナウイルスの変異株による「重症急性呼吸器症候群」(SARS)も、中国や台湾で流行し高い死亡率を示しました。ましてインフルエンザは、流行の多少はあっても毎年のように流行しますので、予防衛生研究所を中心にして流行株を予測してワクチンを製造し、流行の抑止に大きく貢献してきました。またワクチン自体の純度もよくなり副作用も減少しています。しかし、発病を完全には抑えられず、施設としては早期に情報を入手し、感染の伝播を防いだり、発病を早期に発見し重症化を防ぐように努めます。これまではウイルスそのものに有効な薬剤はありませんでしたので、二次肺炎の予防や治療が重要でしたが、最近の研究成果によってインフルエンザウイルスそのものを抑える薬剤が使えるようになりました。昨年度の流行時にも使用しましたが、全国的に抗ウイルス剤が不足するほど使用されました。

2.抗ウイルス剤について

抗ウイルス剤には、インフルエンザA型・B型ともに有効なオセルタミビル(タミフル)とA型のみに有効な塩酸アマンタジン(シンメトレル)があります。原則として、インフルエンザ迅速診断キット(咽頭粘液や鼻汁から)によって診断を確定してから、体重換算して用います。これにより重症度の軽減や有熱期間の短縮がはかれますので、二次的な肺炎の合併率も少ないようです。インフルエンザ流行の報道に注意しながら、38度を超える発熱があったらすぐにかかりつけ医に相談することが必要です。

3.感染の伝播について再考する

インフルエンザは、殆んどが外来性の空気感染ですので、職員などの衛生管理をはかる、外来者で風邪症状のある型の入室は遠慮して頂く、園内の交流を禁止する、外出を控える、湿度を保つ、希釈イソジン液による含嗽、手洗いの励行、栄養保持、水分補給など、いずれも重要です。それでも大流行時には、完全に防止するのは不可能に近く、発病に迅速に対応する段階になります。

今後の対策のポイントとして、①ワクチン接種の徹底(特に職員・ボランティア・保護者についても) ②感染症情報の迅速な入手(インターネットなど) ③流行時には外部との交流を制限~禁止する ④抗ウイルス薬の確保 ⑤合併症の防止がやはり挙げられます。

4.改めて全身的ケアの重要性

重症児者は普通感冒に対しても感染抵抗性が弱く、病棟内での流行を良く起こします。また発病すると、日頃からある呼吸障害や気道閉塞・喀痰貯溜といった気管支炎や肺炎に移行しやすい病弱性がありますので、呼吸器感染に対してだけではなく、栄養や水分摂取、全身状態の保持、緊張や痙攣対策など注意すべきことが多くあります。それほどインフルエンザ感染は「全身病」だという意識を持って対処することが求められています。発熱や活気、体動や息づかい、発汗、尿量など自己表現できない重症児者でも日頃と違ったサインを発信していることをしっかりと受けとめることが大切です。