トーマツの知的財産グループによる書籍です。


ここ数ヶ月、サブプライム問題で景気が世界的に悪化する傾向にあるような記事がよく

見受けられます。しかし、M&A業務をやっている知り合いの方に聞いたところ、今が「買い時」

として活発に活動している企業もあるようです。


M&A関連の書籍は、業や財務、法務といった区分のデューデリに関するものが多いのでは

ないかと思いますが、本書籍は知的財産という切り口から買収候補先を評価する手法であり

日本の中ではまだ市場として成熟していないものかと思います。


国際特許の出願数が上位の6カ国中、日本の売上高研究開発費は米国に次いで高い割合ではある

ものの、利益率が最低であるという衝撃的な事実があり、その後に産業別、企業別の知的財産

に関する戦略について分析、自社の知的財産の棚卸、技術を買うM&Aなどについて従来の書籍では

あまり見られない確度からのさまざまな分析がなされていました。


IBMが製薬企業とのビジネスにおいて活用するために世界中背500社の候補先を選定し、最終的にアイスランドのdeCODE社と提携に至ったとあります。deCODE社(http://www.decode.com/Company/Sites-&-Contacts.php )は地理的に閉鎖的な環境にあるアイスランドの特徴を生かし、豊富な遺伝子情報を

所有しています。前職が医薬関連の仕事であったことから、実はこのdeCODE社とコンタクトしようと

いう話題が前の会社で持ち上がっていたのですが、特にその先の戦略がないことから結局何の

進展もなかった経緯があります。

IBMが製薬企業等に対して圧倒的なプレゼンスを示すための戦略として遺伝子解析といった分野で

外部に技術を求めていく手法は、日本の電機メーカーや製薬企業ではなかなか見受けられない

ものですね(まあ、製薬企業はまだグローバルに買収を仕掛けていこうという風潮にありますが。。。)。


日本の企業がグローバルで活躍するためには、自社内研究は適切に管理し、必要があれば外部に

技術を求め、買収するという手法は、今後ますます重要になるように思われます。

今は会計事務所で働いていますが、昔は製薬企業向けの営業をやっていた経験ことから、少し業界について明るいジェネリック医薬品に関するところからキャッシュ・フロー計算書(CF計算書)の分析をしたいと思います。

手始めに、日医工(株)と沢井製薬(株)とのCF計算書の比較を行ってみました(貸借対照表や損益計算書を少し使いますが)。なお、断りが無い限り、日医工の当期は平成1911月期、沢井の当期は平成193月期のデータです。

10年程度前は、日医工の株価は低迷し、ジェネリック医薬品大手の一角を担っているものの東和薬品や沢井製薬とはかなり業績に差があったと記憶しています。しかし、今や日医工はジェネリック業界の中では国内で時価総額No.1となっています。

子会社も含めた企業グループ全体の連結ベースで見ると、日医工/沢井の順に、売上32,328百万円/34,316百万円、営業利益4,168百万円/4,692百万円、経常利益4,473百万円/4,331百万円、当期利益2,617百万円/2,259百万円と、損益計算書で見る限りは両者ほぼ互角というところですね。

でも、利益が同じくらいでも、全体の資産との比較が必要です。株の投資でも何でもそうですが、1億円投資して10万円儲けたのと、50万円投資して10万円儲けたのでは、同じ10万円の儲けでも全然投資に対するリターンが違いますよね。

そこで、両者の総資産(これがいわゆる会社が行っている全体の投資)に対する経常利益の割合であるROAというものを比較してみると、日医工は13.5%であるのに対し、沢井は6.4%と日医工に対して半分くらいしかありませんでした。

さて、CF計算書に目を移すことにします。日医工では営業CF+1,743百万円、投資CFが△1,548百万円、財務CFが△3,495百万円でした。美しいCF計算書と符号は一致しているのですが、営業CFのプラス以上に、投資・財務CFでマイナスが出ています。当期末のCF計算書上の現金は(たったの)288百万円しかないのがかなり気になるところです。

ここから、少し投資CFと財務CFの中身を見ていくことにします。

投資CFのマイナスの主な原因は子会社における工場建設等の投資で1,665百万円使用したことによるものでした。有価証券報告書を良く見ると、平成2011月期では残り834百万円をまだ支払う必要があるようです。しかし、当期よりも半分くらいの支払となることから、平成2011月期の投資CFのマイナスは順調にいけば、かなり少なくなるでしょう。

一方、財務CFのマイナスを見ると、長期借入金の返済になんと3,418百万円も使用しています。毎期、この程度の返済があるのであれば、かなり借金の返済が大変ですね。そこでちょっと貸借対照表をのぞいてみると、長期借入金(一年以内返済予定長期借入金も合算)が昨年度5,016百万円だったのが、当期末では1,697百万円と激減しています。そのため、平成2011月期は、長期借入金の返済はかなり少なくなりますね。あとは短期借入金が6,324百万円あるので、それを返済するかどうかといった点がありますが、毎年借り換えを行っている可能性があるので、無理に返済する必要性はないでしょうね。利益が順調にでていることから、銀行からも返済を迫られる状況にはなさそうですし。

平成20年11月期は、投資・財務CFのマイナスが当期よりも改善する可能性が高そうであり、CF計算書の数値や構成は良くなる雰囲気が漂っていますね。


今日は沢井の方のCF計算書の詳細は見ませんが、大きなイメージで言えば営業CF4,370百万円、投資CF10,551百万円、財務CF+15,449百万円となっています。本業での現金獲得能力が低く、いわゆる借入や株主からの調達で現金をまかなっているという構図です。

CF計算書を見る限りは、日医工のほうが余裕がありそうですね。期末現金が少なすぎるのが少々気になりますが、まあ、いざとなれば貸してくれるところはいくらでもあるでしょう。


ちなみに、勝手な分析なので、株式投資のために情報は使用しないでくださいね。

キャッシュ・フロー計算書(CF計算書)はいろいろな書籍でも言われているとおり、貸借対照表や損益計算書と比較して会計操作が難しいものです。企業がスイス銀行に隠し口座を持っているといったことが無い限り、現金の動きや残高はごまかしにくいものです。

CF計算書は、営業CF、投資CF、財務CF3本立てで表示されています。主に本業で稼いだ営業CFを、工場等の投資に使用し(投資CF)、借入の実行や返済(財務CF)で現金を調整するというのが大まかなイメージです。

そのため、営業CFはプラス、投資CFはマイナス、財務CFもマイナスといった符号で、かつ営業CFの範囲内で、その他のマイナスがカバーされているというのが美しい宝石赤CF計算書です(当然、例外はありますが。。。)