互いに握りあった手があったとして、
この手を離してしまえばもしかしたらもう握ることはないかもしれない。

温かみのあるこの手に、もう触れることが出来ないかもしれない。


そんなことがあったとして、はたして世の人はどうするのだろうかと最近考える。


「離さない」


なんてとても現実的ではない。

ずっと手を繋いだまま、生活なんて無理だから。
両手を使ってご飯を食べるし、お風呂だって入るし、トイレだっていく。

だから、いづれ離さなければいけないこの手を、この温もりとこの現実を何時までも忘れないようにするために、記憶に留めておこう…






それは一般的な意見であって、
そんなこと、私には出来ない。






記憶なんて一瞬で、都合よく書き換えられてしまうから。


そして、思ったより、人間はすぐに忘れてしまう生き物だから。


2年前には元気よくおどけて見せてくれた笑顔も、聞かせてくれた昔話も、帰り際にぎゅっと握ってくれた手のひらも、もしかしたら今回が最後なんじゃないかと。


そんなことを思いながら。


胸が無性に締め付けられて、溢れでそうになる涙を見られないように隠しながら、弱々しく握る手のひらを、バイバイとともに離すんだ。

何故、もっと早く出会わなかったのか、何故、近くに居ながら会えなかったのか。


私の生い立ちを悔やんでも仕方ない。



だから、私は写真を撮った。
沢山、生きた証を写真に撮った。

3人では最初で最後になるかもしれない写真を撮った。



また、夏になったら会いに来るね。
それまで元気で居るんだよ?
じゃあね。
バイバイ。



迫り来る別れに私は何も出来ないのだけど、別れの最後に近くに居ることをわかってほしくて手を握る。

力強く握ってみる。

すると力強く握り返してくれる。

握った手をおでこにあてて、何かお願いをしてるみたいに。

そうすることで失った時間を埋めてくれるような気がした。





あと、何回会えるのだろうか。



永遠なんて、あるはずもないから、きっと終わりが来る。


その日まで、
その瞬間まで、また会えたこと、触れあえたことに感謝しなければ。